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▽ 拗らせながらも祝いたい








授業の合間に休憩スペースでお茶を飲んでいたら携帯がラインの通知を知らせた。
それを何気なく見ればこの間(半強制的に)アドレス登録をした及川のものだ。
内心、嫌な予感がしながら本文確認をしようと操作すればそこには



『近々飛雄から連絡あると思うから覚悟しといた方がいいんじゃない(笑)
 菅原くんの爽やかさがどれくらいもつか及川さん楽しみにしてる〜★』


とあり、その後にダブルピースしたスタンプが添えられていた。



「…激辛麻婆豆腐食べに行こ」



そうして菅原はこれからの心構えの為、馴染みになった中華料理店に好物を食べにいこうと今日の予定に追加し立ち上がるのだった。








及川の指摘(どちらかと言えば愉快犯の犯行予告近いが)通り、それから間もなくして影山から菅原に連絡が入った。



『相談あるんス』



と簡素でそれ故本気を感じさせるので菅原には(こえぇなぁ)と思わせるのだ。
まあ、そこで及川と菅原の違いは相談があるなら力になってやりたいと考えるところだろう。
今回は居酒屋ではなく電話だ。
練習が忙しすぎて会う時間が作れないが相談に乗って欲しいのだ、というのが影山の談である。




『チッス。…すみません、菅原さん』
「おー。構わねーよ、気にせず話してみ」
『アザッス。……あ、その……』
「うん」
『………えと、あー……』
「影山…?」




相談したいという割に口ごもられてしまってはお手上げである。
物事を直截的に言う影山にしてはひどく珍しいが、それくらい重要度が高いとそういうことだろう。



『女子って、その。押し倒すと喜ぶって本当すか』
「いや本当な訳ないだろ?!」



言葉を選んだつもりだろうが、さっぱり選びきれていない影山はやはり影山だった。
一体誰に吹き込まれたかなんていうまでもない。…及川であろう。
ていうか時系列で話してくれ頼むからと菅原はそっと頭を抱えた。
なんだってそんな突飛なことになっているのか。


『…来週、谷地さんの』
「んお、やっちゃんの?」
『誕生日なんです…』


なるほど、と菅原は納得する。
大方女子の喜ぶものやことが解らなくて、でも谷地の誕生日だからなんとか喜ばせたい。
それで及川に相談に行ってやっかみを含めていらんことを吹き込まれたと大体こんなものだろう。



「うーん…及川のアドバイスは横に置いといて」
『はあ…』
「影山はやっちゃんに何あげたいんだ?」
『…喜ぶもの、っす』
「じゃあ、質問変える。影山はやっちゃんと話したりしててやっちゃんが喜んでるなって思う時はいつだ?」
『いつ…』
「そう。よーく考えてみ?」


そう投げかければうんうん唸る声が聞こえる。
きっと画面越しには眉根に思いっきり皺を寄せて考え込んでいる影山がいるのだろう。


『あ、の』
「ん?答えでたか?」
『合ってるか、解んねーすけど』
「うん」
『俺が、試合、勝った時が、一番…嬉しそう、ッス』
「…そか」


なら、また練習試合を見に来るように誘ってみ、そんでいつもの感謝とおめでとうを言えれば上出来だべ。
と言えばあざっっす!とここ一番の覇気のある声でお礼がとんできた。
まあ、これくらい言っておけば大丈夫だろう。


「まあ、それで指輪とか渡せちゃったらすげーと思うけど」
『指輪ですか?』
「え、ああまあ出来たらって話で」
『もう渡しましたけど…』
「え、えええええええ」


それが出来てなぜ誕生日のプランが浮かばないんだという菅原の絶叫が響く。
及川さんが悪い虫除けには指輪だって、言ってとしどろもどろになっている影山が釈明するが菅原の耳には届かない。




取り敢えず、及川に苦情の電話をかけることは決定事項として、谷地には素敵な誕生日をどうか過ごして欲しいと願わずにはいられないのだった。






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