※3Z設定






俺は何故今ここにこいつと居るのか。経緯はよく覚えていない。
たしか学年最後のテストが終わって、行きたい所がある、とこいつに無理矢理手を引っ張られて行った先が見覚えのない路面電車の駅だった。電車の中で何処に行くんだよ、と問い掛けても、あいつはただ窓の景色を眺めているだけで。ふと、ある場所に停止したとき、物憂げな表情であいつが降りるもんだから、俺は急いで追い掛けて、辿り着いた先がここだった…ような気がする。静かな森の間から赤い鳥居が見える。何の神社か、と看板を見てみた。『松陰神社』と書いてあった。

「はぁ…はぁ…っ、お前、どうしたんだよ」

俺は走ったせいでもう息も絶え絶えだ。

「こんなとこまで急に連れてきやがって」

俺が問い掛けても、あいつは未だ鳥居の前に佇んだままで、答える気はないらしい。いらいらして頭を叩くと、はっとしたように肩を揺らして、頭を摩った。そして俺の頭を仕返しのように叩いてから、鳥居の奥に進んでいく。

そういえば、俺は学校以来、こいつの声を聞いてないことに気が付いた。おい、高杉。何度呼び掛けても反応する気配はない。いくら喋る方でないこいつにしても、今日はあまりにも様子がおかしくはないか。いきなりこんな何処とも知らない場所に俺を連れ出して、真っ直ぐただ己の体に行方を任せている。まるで、何かに取り憑かれているようだった。



「ここに、来なきゃいけねぇ気がしたんだよ」

ずっと喋っていなかったあいつがようやく口を開いたのは、昔の家のような建物の前に来た時だった。前の掲示板のようなところに『松下村塾』と書いてある。何処かで聞いたことがある言葉だ。いつか日本史で習ったのかもしれない。吉田松陰が建てた塾が松下村塾だった、そうやる気の無い教師が言ってた気がする。

「どういうことだ、それ」

「分かんねぇ。だが、知らないうちに体が動いてた」

「で、俺も巻き添えを喰らったと」

「昼飯奢ってやる」

「高いのにしろよ。ファミレスとか」

「じゃあサイゼな」

「安いじゃねぇかそれ」

軽口を叩きながらも、あいつはどこか寂しげな表情をしながら小さな建物を眺めていた。一体、この建物に何があったというのか。本人も分かっていなかったらしいが。
そして一体、この状況は何だ。風に揺らされる木々の音だけが辺りにこだました。何だか夢の中にいるような、現実離れしたような不思議な気分になった。

ふと、横を見てみると、こいつの頬に水滴が伝っていた。雨、降ってないよな、と頭上を見上げても、澄んだように青空が広がるだけで雨は降りそうにもない。こいつが、泣いているのか?いかにも涙とは縁が遠そうなこいつが、高杉が泣いている。静かに、音を立てずに、目を見開きながら。

何で泣いてんだよ。問うとこいつは泣きながら、懐かしい気がしたんだよ、何か知んねぇけど、この吉田松陰っていう人が死んだことが、まるで自分の親族が死んだように悔しいんだよ。と搾り出すように言った。正直言って俺には全く意味が分からない。だが、何だかそれ以上は聞いてはいけないような気がして、俺はただ、土に染みを作って落ちていく雫を、黙って見ていることしか出来なかった。









前世的なw
去年の夏頃友達と松陰神社に行った時の光景を思い出しながら書いたので、色々間違ってるかもしれません。







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