※少し注意



「ねぇ、プラナリアって知ってる?」

「プラナリア?何ですか、それ」

「生物だよ。湿った陸上に生息するウズムシ科の小さい生物なんだけど、その生物は動物最強と言われているんだ」

「え、何でです」

「不死身の体だから」

「不死身!?」

「うん。プラナリアの体をナイフで切っても、その断片がそれぞれ別に生きて、二週間もすると断片から元の体に戻るんだ」

「へぇー…凄いですね、それ」

俺はくにゃくにゃしている小さい生物を思い浮かべてみた。
それを切ったら、二つに分かれて、それぞれが切られた形のまま普通に生きて、二週間後には元の姿に再生する。まるで全身が細胞のようだ、と思う。

「…けど、何か奇妙だなぁ」

「そう?僕は人間なんかよりよっぽど羨ましいと思うよ」

「切られても分裂するだけだから?」

「それは嫌だな。だって僕が分裂したら気持ち悪いじゃない。…そうじゃなくてさ。プラナリアが切られて分裂するのは、自らの体をちぎって生殖するからなんだって」

「…へぇ、」

「僕達人間も、もし自分の体をちぎるだけで生殖出来たら、少しはこの世界も救われるのかな」

俺は何も返さなかった。返せなかった。その全てに失望したような目の先が何処に向いているのかも、俺には分からない。人類がプラナリアのような生殖技術を身につけた後の、何のドロドロもない平和な世界か、男女間でしか生殖出来ないが上、複雑に想いが絡まり合う今の世の中か。プラナリアでもないのに関わらず、何の生産性も持たない行為をダラダラと続けている愚かな俺達か。

でも俺はね、先輩とそういうことをするのが好きなんです。もし人間がこういう生殖手段を取らなければ俺達がこんなことをすることはなかった。むしろ、人間には感謝してるくらいなんです。即座にそんな台詞が浮かんできたが、流石に言えなかった。彼はこんな軽率にそれを考えていない。むしろ最大の悪行であると思っているのかもしれない。俺への最大の仕打ちが、この行為だったのかもしれない。

でも、少なからず俺は嬉しかった。マゾヒストという訳ではない(否、完全には言い切れないかもしれないが)。彼はそれは酷く手荒かったけれど、恋人の真似が出来ているような気がしたのだ。いつもは俺に見向きもしない彼が、その時だけは俺を見ている。嗚呼、彼に溺れている。そんな気分に浸れるのがとてつもない悦びだったのだ。

「…俺は、プラナリアにはなりたくないですかね」

精一杯、絞り出したのがこの一言だった。彼は相変わらず遠くを見ている。世の中に失望したような、生気の全く感じられない目。

先輩のその目の先に、少しでも俺の姿があったらいいななんて、そんなどうしようもないことを考えた。









暗い。
8/30 加筆修正しました





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