後悔なんてしてない。
だからきっと、


「これで最後っと……」
暖かい日の光を背中に感じながら溜まりに溜まった雑誌をなんとか縛り上げてふうと息を吐いた。
改めて部屋を見渡すと、こんなに広かったのだと感じる。
四年前、始めて部屋に足を踏み入れたときもこの広さを気に入って、どうしても住みたいと駄々を捏ねたわたしのために彼女は当初の予算より大分オーバーだったこの部屋を半ば脅しのような交渉の末安く借りる事を成功させたのだった。

「そっちは終わったみたいだね」
声がした方を向くと、ドアに寄りかかるようにして彼女が立っていた。四年の間に腰まで伸びた長い栗色の髪や目元の少し濃い化粧が彼女の強さをより引き出していて、何よりわたしはその強さが好きだった。
「わたしの荷物ばっかりで……ごめんね長引いちゃって」
部屋に無造作に置かれた段ボールの数は圧倒的にわたしの方が多かった。元々彼女にはあまり物欲がないらしくて、一緒に暮らすようになってからも増えるのはわたしのものばかり。そんな所が羨ましいと言われたこともあったけれど今思えばそれは物に対してだけじゃなかったのかもしれない。
「ううん、急なことだったし」
「……うん」
そうしてお互いどちらともなく笑う。こんな風に笑い合うこともなくなるのかと思うと、この笑顔がそのまま顔に貼り付いて剥がれなくなってしまいそうだった。

「その写真は剥がさないの?」
不意に彼女が窓の隣に掛けてあったコルクボードを指差した。あ、とわたしも振り返る。
そこにはここへ来てから初めて撮った写真が貼ってあった。
立ち上がってコルクボードから剥がす。彼女の視線を背中に感じ、なんとなく気まずくなってひどく明るい声を上げた。
「若!ほら見て、これ!」
「ほんとだ……」
そこにはツーショットで幸せそうに笑う今より少し幼いわたしと彼女がいた。

「わたし、あの頃は何だって出来る気がしたんだよね」
写真を見ながら呟く。
「でももう、出来ないや……」
貴女を引き止めることは出来ない。
はっと彼女の息を呑む音がしたけれどわたしはそれをあえて無視した。
馬鹿みたいに夢ばかりみていた少女のわたしは、とうとう階段を上りきって、知ってしまったのだから。

「ごめん、ね」
「……あやまらないでよ」
泣きたくなるじゃない。
言いながらそれが既に涙声だということには気付かないフリをした。
彼女のこともずっとそうしていたかったけれどそんなことをしても、もう取り戻せない。そっと彼女の様子を伺うと、ぼやける視界の中に映った俯く彼女の肩が小さく揺れているように見えて、事実を確かめる前にわたしは強く目を閉じた。
わたしは少しでも彼女の特別になれたのだろうか。ああそれでも、

「それでもきっと……きっとまた、ね」

あなたに似てる人と恋をする。

勇猛な人
(だけどあなたはわたしとはまったく違うひとを好きになってほしい)










*完全に天/野/月/子さんの曲ラ/イ/オ/ンよりインスピレーション頂いてます。
何度も聴いてるうちに、ふとGLなんじゃないかこれ?と思ったのです←
091228


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