私は彼女が嫌いだった。
唐突すぎるけれどそれしか言いようがない。生理的に、というやつなのだろうかとにかく同じ教室に席を並べることになってからずっと苦手なのだった。
彼女は別に私を苛めるわけでも、特別意地が悪いわけでもない。
むしろ友人の数は私より数倍多いとみえる。
それでも彼女の一挙一動を見る度に胸をよぎるなんとも言えない気持ちは拭いきれないまま、私の中に沈んでいくのだ。
そんなもやもやを抱えながら過ごす今日は木曜日、四限の授業はホームルームだった。

席替え。
退屈な日々の授業の中で、唯一の楽しみと言えば近い席同士での交流だろう。教師の目を盗んで回す手紙や、おおよそ授業とは関係のない愉快なお喋り。そしつそれを行うのに何より大事なのが座席なのだ。その調整手段として月に一度行われるのが席替えだった。
今回もまた、今の座席に飽きた調子の良い男子の提案で執り行われることになったらしい。

「何番だった?」
紙を切った手製のくじを回す係のやや派手な女子──結局仕切るのは大抵言い出しっぺの男子ではなくしっかりした女なのだ──が笑いながら私に聞いた。私が引いた番号は二十九。丁度窓際の前から二番目。それからすぐに黒板に書かれている前後と右隣の名前も確認する。
その瞬間は多少なりとも緊張するものだけれど、しかしそれは一瞬にして露骨に嫌なものへと変わった。
私の後ろは彼女だったのだ。
慌てて表情を固くする。
不快な顔をすれば誰かに気付かれてしまうからなるべく平静を装って、席の移動を完了した。
まだ新しい座席の余韻に浸る教室の喧騒を遠く感じる。
代わりに、後ろにいるであろう彼女の存在が痛いほど背中に刺さった。
これから一ヶ月もの長い間毎日こんな思いをするのか、憂鬱と、何も非のない彼女に対する罪悪が重たい。
けれどそんな重みを払うような明るい声が後ろから私の苗字を呼んだ。

「よろしくね」

彼女にとってはただの挨拶だったに違いないけれど、それは私に今まで彼女に対して決して感じたことのない気持ちを芽生えさせたのだった。彼女は、こんな風に笑う。
そう思うと、もやもやがすうっと何処かへ消えていくような気がした。
突然のことで「うん」と頷くしか出来なかった私に彼女は再び笑いかける。一ヶ月、それは案外と長くないかもしれない。今度はちゃんと小さく笑いかえしながら、そうぼんやりと思った。


席替え










*苦手意識を持っていてもふとした拍子に実はそうでもないかもしれないと思うことがあったりなかったり。
そんな瞬間を女の子同士で書いてみたかったのです。
091129


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