葛が葵に初めて抱かれてからもう三月が経とうとしていた。
真昼間に葵は決してそんな素振りを見せることはなかったが、日が落ちれば途端に理性も崩れて墜ちる。目蓋を閉じる暇もなく、大きく息をする余裕もなく、口を開けば出てくるのは聞くに堪えない声ばかりで、それでも葵は無口な白日の葛よりも饒舌になる小夜の彼を、文字通り愛するのだった。
「もう駄目だろ?こんな風になって、」
葛の髪に指を通して葵はしみじみと言う。耳の上あたりを撫でるのが好みのようで、丁寧にてのひらが往復する感覚にとろりと葛の視界は揺れた。
「俺がそうしたんだ」
お前が駄目になるように、と口唇は軽やかに言葉を紡ぐ。「こんなに巧くいくとは思わなかったけどな」
葛は酷く気怠い億劫な心地で全く閉口して、されるがまま、聞いていた。
「葛?寝るのか?」そう言われるまでもなく、既に葛の眠気は限界だった。葵の言葉がどれほど葛に響いたのかは定かではないが、それよりも今はとにかくこの静寂の中をどこまでも進んでゆきたい。己を見詰める全てのものから視線を逸らしたかった。

結婚しようか、とその男は言った。

もうそろそろ頃合いだろうと続けたが、葛は力なく閉じられた眼の上に未だしゃんとしている眉をつ、と顰めるだけであった。戯れ言をそうと見抜くことでさえ、もはや彼には時間が必要だった。
「ずっとしあわせにしてやるよ」
遠くから葵のやけに愉し気な笑い声が聞こえてきて、どこか別の世界へ居るような気になって、漸く葛は穏やかな眠りについた。


明日こそ美しいですように


無責任な男に意固地に想われていることが、辛うじて彼を破綻から救う。
無防備な男に無気力に従われていることが、辛うじて彼を破滅から救う。
(今だけの、今しか赦されぬ、今を限りの感情論)










*タイトル:吐く声

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