「ねぇ、いいでしょ?ねぇ!」
「いやだからもう先約が…」
「どうせ毎日同じ先約じゃない!たまには私と回ってよ!」
「ぅ…」

只今午前11:30。
場所は2年のとある教室。
『焼きソバ☆』と書かれた看板のぶら下がるその部屋のど真ん中で、二人の生徒が争っていた。
一人はうちのクラスの男子。もう一人は、

「…また来ちゃったんだ萌黄ちゃん」
「…よくやるわな」

萌黄は今年この学校に入った…つまり一年生。
女の子の中でもとくに可愛いと、一年や三年では有名だ。
彼女の見た目や仕種は男心だけでなく女心もくすぐるという。
ちなみに二年でも有名だが、理由は全く違う。
「あのバカップル」の片割れに性懲りもなくアタックし続ける勇気と度胸と無謀さで注目されている。
残念ながら肩を持つものは誰ひとりいないが。

「可愛い顔してよくやるねぇ…教室のど真ん中であんな告白じみたこと」
「ちょっとちげーな、告白じゃない、脅迫だ」

今このクラスの人達は二種の人間に分けられる。
我関せずといった風に無視をし教室の飾り付けに勤しむ者と、うっぜぇ…的な目で二人を見守る者。
俺達の場合はもちろん後者だ。
少なくともちょっかいをかけようと思うものはいない。
これが他の男なら、まだしも。


しかしいつまでも見守ってはいられない。
上からぶら下がり焼きソバのキャラクターに目をやれば、なにやらふつふつと沸き上がる使命感が俺を襲うのだ。
さっさとこの争いを止めて学祭の準備をしろと。

その一大イベントの当日まで、残り三日を切っていた。




*


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