sweet poizn!


気持ちのいいほどに蛍光色を浮かべた菓子の数々が、次々と並べられていく。これがアメリカやイギリスのお菓子の様に、狙って色付けられたものなら何の問題も無いのだが、残念ながら目の前に並ぶそれはそう言ったものではない。
依然として食材相手に悪戦苦闘を続ける少女が、ハロウィンの為に普通の菓子を作ろうとして、何故かこうなってしまった物なのである。そんな菓子の数々を横目に、瀬方隆一郎は溜息と共に吐き出した。
「なあ、本当に全部食わなきゃダメか、これ」
そんな彼の言葉に少女−−皇マキは即座に反応した。そうしてフリルのついたエプロンを身につけたまま振り返ると、ケーキの生地の様なものがついたヘラを、瀬方に突きつけた。
「当たり前よ! どれもマキの自信作だもん。残したら許さないから!」
毅然としてそう言い放たれ、瀬方の顔は一瞬にして青ざめる。その理由は単純である。とてもでは無いが、並べられた菓子の数々は人の食べる物には見えなかったからだ。
「ほら、でもマキさん? この青い奴なんかは良い色出てますし、武藤の奴にでもどうかなあ……なんて」
 不自然な敬語が、瀬方の口から漏れる。勿論全て建前だ。少しでも誰かを巻き込もうととっさに付いた嘘である。
 しかし、瀬方のその企みは、マキの笑顔と共に、容易に葬り去られた。マキは右手に蛍光色の菓子がパンパンに詰まった袋を掲げると、満面の笑みで言い放ったのだ。
「大丈夫! 皆の分はこっちに取ってあるから!」と。
「なら、俺も皆と一緒に楽しんで食べたいなあなんて思うんだけど……」
 それでも瀬方は何とか少しでも自分の食べる量を減らそうと、余り要領の良くない頭をフル回転させる。そうしてなんとか絞り出したのが今の一言であったのだが。
「無理よ、だって隆一郎は毒味役だもん。マキあんまり料理上手くないから、皆に変なのを食べさせたら、大変でしょ?」
 なら俺はどうなっても良いのか! 喉元まで出かかったその言葉を、瀬方は何とか言わずに堪えた。
 万策尽きた。瀬方はそう諦めて、ゆっくりとケーキの一つに手を伸ばした。勿論、数秒後に口内に走る何とも言えない不味さを覚悟の上で。
 しかし、意外にもそれは訪れなかった。口の中にはゆっくりと甘味が広がり、ケーキ自体はゆっくりと溶けて行った。余り甘い物が好きではない瀬方には少々甘過ぎる様にも感じられたが、それも不快に成る程ではない。
「何よ……その顔」
 気がつくと、マキがゆっくりと瀬方を見下ろしていた。恐らく不味くなかった、という衝撃的な事実が瀬方の顔に何とも言えない表情を貼付けさせたのだろう。
「いや、まあ……案外美味しかったから、ちょっと、ビックリして」
 瀬方がそう言うと、マキは、当たり前でしょ、と返した。
「一応色々皆に聞いて回ったんだから。美味しくない筈無いじゃない」
 彼女はそう言って笑みを浮かべると、その後菓子の袋を手に取った。
「じゃ、コレ皆に配ってくるから、後は好きな様に食べてね!」
 その言葉とともに、マキはキッチンを後にした。その言葉に甘えて、瀬方が二個目のケーキに手を伸ばした,丁度その時である。
 言葉にならない程激しい腹痛が、突如彼を襲った。その痛みは例えるなら下痢や、そういった病で感じる様な腹痛が全ていっぺんにやって来た、とでも言えば相応しいだろうか。
 それほどまでにそれは辛い物であった。しかし瀬方には思い当たる原因が無かった−−勿論、ただ一つを除いて、では有るが。
「アイツの、菓子か……」
 やはり蛍光色の物等口にしなければ良かったなあ。彼はそう思いながら、ゆっくり意識を失った。
 さて、その後、お日様園で、何人もの人物が“原因不明”の腹痛で倒れたのは言わずもがなである。そしてその中で一番重篤な症状に陥ったのが、勿論瀬方であると言う事も。


モドル


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