この世で叶わぬ事ならば


ふぅ、これで今日の部室整備は終わりかな、俺はそう思いながら部室の中を見渡す。
うん、大部奇麗になった。円堂なんかに任せておくとろくな事にはならない。そこら辺は鬼道や豪炎寺辺りが手伝ってくれると良いんだが、鬼道は父親が心配性なのか知らないが部活の終了時間に何処からかリムジンが迎えに来たりするし、豪炎寺は何故だか分からないが家へすっ飛んで帰ってしまう。二人とも忙しいのであろう。かといって円堂なんかに任せておくと部室の整備は一切出来てない上、下手をすればむしろ悪化してる事も珍しくない。全く、どんな感覚をしているんだか、まぁ、それが円堂という奴なのだろうけど。
こういう時は、陸上部時代が懐かしく思える。あの頃は掃除はもちろん自分もだが、部員全体で行っていたし、少なくとも今よりは掃除にかかってた時間は短かった気がする。
そう思いながら時計を見るともう7時を回りかけている。
ヤバい、いい加減帰らないとな、そう思って俺は自分のバッグを手に取って部室を出る。
そうだ、鍵を閉めないと。そう思って鍵を出した時、後ろから声をかけられる。

「風丸先輩!!」

いきなり呼ばれて俺は急いで振り返る。そこに居たのは宮坂だった。

「お前……どうした?」

「えへへ、待ってたんですよ。風丸先輩が出てくるの。」

そう言って無邪気ににっこり笑う。こうして見ると本当に女の子みたいだな。いや、別に俺が変態とかだとかじゃなくてあくまで一般論。多分客観的にいろんな人が見たってコイツを男と見る人数は少ない気がする。

「そうか……アレ、だとしたらお前一時間以上待ってたって事か?」

俺がそう聞く、すると宮坂はこくんと頷いて

「あ、はい。いや……ちょっと話したい事も有ったんで。」

と言う。何だろうな、俺はそう思ったがあえて聞かない事にした。どうしても話したい事なら自分で話すだろう。そう思って俺は校舎を出る。もちろん宮坂もついて来た。
俺の家に帰るには嫌でも商店街を通らなきゃ行けない。空腹の俺には辛い道だ。
しかし、7時も回ろうかという時間だ。殆どの店は証明を落とし閉まっているようだった。
食事どころを除いては。
そんな下らない事を考えてると宮坂が不意に話しかけてくる

「あの……風丸先輩。」

「何だ、宮坂?」

「今、僕が貴方の事を好きっていったらビックリします?」

宮坂の急な一言に、俺は焦って言葉を失う。
だが、数秒で正常な思考を取り戻し

「そりゃビックリするけど……何の冗談だ?」

と返す。しかし、それを言った宮坂の目は真剣そのものだ。
本当に憧れる片思いの人を見るような目。

「冗談なんかじゃ有りませんよ……風丸先輩……」

そう言って宮坂は俺の唇に顔を近づけてくる。しかし俺は無情にもその宮坂を突き飛ばした。
非道い行為だという事は分かってる。でも、これはいけない、何故だか知らないが本能的な部分が拒否をする。
多分、世間から外れたくないと願っている部分が。

「何で……ですか?」

突き飛ばされた宮坂が立ち上がるなり一言言った。そしてその後も狂ったようにまくしたてる。

「何でなんですか?ずっと辛かったんですよ?貴方と初めて会ったその日からずっと貴方の事を思い続けてました。けど、僕は男だし、貴方も男だし、でもこの気持ちは一向に収まらないし、それなのに突然貴方は陸上部を辞めて、ドンドンサッカー部の皆さんと仲良くなっていくし……」

突然宮坂の言葉が止まる。そして宮坂を見ると、頬に涙が伝っている。
そんな宮坂に近寄って俺はなだめる様に言う。

「宮坂……お前の気持ちがわからない訳じゃないよ。けど、まだ色々問題が有る。俺達は両方男だし、それにまだ中学生だ。な、分かるだろ?」

その間も宮坂は泣いたまま、よくわからない言葉を呟いていた。
でも、やがて落ち着いたようだ。

「風丸先輩……」

「何?」

「あの……抱きしめて、キスして下さい。そしたら諦めます……だから……」

宮坂が頼み込んでくる。それもかなり深刻な顔で、だ。
俺はそんな事でコイツの気持ちが収まるのなら、と思い。ぎゅっと抱きしめた。

「これで、良いか?」

「はい……」

そして俺は宮坂と唇を合わせる。不思議とさっき程の嫌な感覚はしない。
何だろうか、そんな思いが胸をかすめる。

宮坂が俺から離れる。そんな時、突然体に鋭い痛みが走った。
自分で手を当て、それを顔の前まで持ってくる。
そこにはべっとりと血がくっついていた。そして俺は力なく地面に倒れこむ。

「ごめんなさい、風丸先輩……やっぱり無理なんです……」

宮坂の声が俺の耳に入る。俺はその言葉に何とか言葉を返そうとするが声が出ない。どうやら、肺にナイフが届いているみたいでひゅうひゅうと音が漏れるだけだ。

「でも、心配しないで下さい。僕も一緒に行きますから。」

宮坂が無邪気に笑う。そして俺を傷つけたであろうナイフを自分の手首に当て、一気に切り裂いた。
すると、腕から鮮血がドッと吹き出して、宮坂が倒れる。でも、その顔には苦痛に歪む表情等一切見受られなくて、たださっきと同じッ笑った顔が有った。

俺は、最期の力を振り絞って宮坂に近づく。何でこんな事をしてるのか、自分でも分からない。
けど、なんかそうしないと駄目なような気がする。

俺が宮坂の腕を取る。もう脈は無く、だんだん冷たくなって行っている。
そして、それを待っていたかのように俺の意識も急激に遠のいて行く。
このまま死ぬんだな。そんな事が漠然と俺の脳裏に浮かぶ。けど、何故だか後悔の念は無かった。
多分、コイツと一緒に居られるからだろう。俺もコイツの事が好きだったんだ。けど、色々な物を気にして自分の気持ちに嘘をついていたんだと思う。
だけど、もうそんな事は関係ない。これからはずっと二人一緒。誰の目も気にする必要はない。
そんな安堵感が心に満ちた時、俺の意識は完璧に闇に飲まれた。

一体何時のだろうすげー気になる。
この頃の文が一番読みやすくてすっきりしてる気がします。今のより上手いんじゃないかと普通に思う。
モドル
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