不動対佐久間(*不動の死に方がだいぶエグいです。注意)


 突然、投げた物がワープした。
 何を言っているか分からないと思う。俺だってそうだ、自分が一体何を言いたいのか全く分からない。いや、でも多分今俺の目の前で起きた事はそれ以外に説明の使用が無いと思う。
 空き缶を、ゴミ箱目がけて投げた−−それだけだ。それだけだった筈だった。しかし、俺が投げた空き缶は、俺の手から離れたその瞬間に、一切の痕跡残さず消え失せたのだ。そして、それから大体一秒くらいして、消えた筈の空き缶は、ゴミ箱の上へと突然姿を現して、そのまま落下したのだ。
 多分空き缶が迷彩色なんだとか、見えなかっただけなんだとか、そんなちゃちな話ではない。多分、きっと間違いなく瞬間移動−−ワープの類いだ。だが、何でそれが起きたのか全く分からない。俺に,へんな力でも目覚めたと言う所なのだろうか?
 いや、もしかしたら今投げ捨てた空き缶がたまたまが何処かの科学者が造り出した発明品かなにかで、そういう機能を持っていただけかも知れないし。
 そう思って、俺は近くに落ちていた小石を拾った。そしてそれを同じ様にゴミ箱に向けて投げつけた。
 結果は−−見事に同じだった。石は俺の掌を離れた瞬間ワープして、空き缶と同じ様にゴミ箱へと落下した。いや、まあ分かっていた。分かっていたが、どうやら俺にへんぴな力が目覚めてしまったらしい。
 全く、途方も無い事になったなあ。そう思いながら、俺は帰路を急いだ。

 *

 翌日になっても、やはりと言うべきか、俺の力は無くならなかった。
 一応昨日家に帰ってから色々試してみて、気付いた事が二、三有る。
 一つ、この能力は、俺が投げられる物に反応するという事。触れただけじゃ発動しないし、触れてすぐ話すだけでも発動はしなかった。恐らく、能力が発動するトリガーになっているのが、投げるという行為なのだと思う。
 二つ、俺がじかに瞳だけを通して見た事が無い場所には多分投げられない。とりあえず俺は、テレビを付けて、生放送のニュースやら、バラエティ番組のロケ現場に片っ端から何かを投げた。その内物が消えたのは、一度行った事の有るテレビ局前で行われている、天気予報のコーナーだけだった。
 三つ、二つ目の検証の最中に分かった事だが、瞬間移動しなかった物は、移動せずにその場に残る。
「正直言って、微妙な能力だよなあ」
 俺は、空き缶をぶん投げて、そうつぶやいた。無論、投げた空き缶はゴミ箱へワープさせた。
 確かに便利な能力なんだとは思う。ただ、正直言うと男としては、実用性がなくとも、もうちょっと派手な能力が欲しかったというのが本音だ。
 ぶっちゃけた話、特殊能力なんて必要なものではないのだ。ならば、実用性がなくとも、派手で格好いいものを望んで何が悪い。それに--
「こんなのじゃ、もし俺以外の変な能力者とかに襲われたら一瞬だよなあ」
 そんなことを呟いた、その一瞬の後だった。
「そう、そのとおりだ。そんな弱い能力じゃあ、死んじまうだけだぜ?」
 不意に、そんな声がした。どこからだ? 俺がそう思った時、不意に何かしらが、俺の頬を掠った。血が一滴、掠った頬から垂れる。
 それは、瓦礫だった。それも多分、俺の顔の大きさとさほど変わらないほどに大きな。
 俺は驚いて、瓦礫の飛んできた方向に目を向ける。そこには広大な大空が、壁にあった窓よりはるかに大きな枠に収まって写っていた。
 その中心に、一人の男の人影が見えた。
「だせえ……」
 思わず、俺はつぶやいた。理由は単純、目の前の男の髪型である。メッシュの入ったモヒカンヘアー。正直に言って、見てるとなんだか痛い感じがして、こっちとしてもどうしようもない心境になる。
「言うな! こうした時は格好いいと思ったんだよ!」
 どうやら自分でもその髪型に後悔しているらしく、男は言った。
 しかし、ふざけた髪型だが、この男に油断はできない。見ればわかるが、この壁の穴--多分これは、何らかの、多分、きっと俺と同じ能力を使ってこの男が開けたものに違いがない。そう考えると、俺のそれとは違って大分戦闘向きな能力といえるだろう。
 それに気になることだがここはマンションの五階だ。穴が下まで貫通していないことを考えるに、この男が吹き飛ばしたのは俺の部屋の壁だけだ。そう思うと、俺の部屋までどうやって浮上してきたのか、という点も十分に考えるべきだ。
「その顔、俺の持っているのがどんなのか知りたいっていう感じだなあ」
 不意に、男が言った。そして彼は、ゆっくりと手のひらを俺に向かって向けた。
「教えてやるよ--ただし、頭にじゃなくて、体に、だけどな!」
 突然赤い光が、彼の手に集約した。何か、来る。俺はそう思って身構えた。
 刹那、男の方向から爆発音がして、俺は吹き飛ばされた。なんとか受け身をとっていたから、ダメージはそれほど多くなくて住む。
「これが俺の能力だ--俺は、手のひらの上で自在に爆発を起こせる。威力に関しちゃあ少しは制限があるが、基本的には自由自在だ」
 なるほど。その説明を聞いて、俺は理解した。こいつはきっと、爆発をジェット噴射みたいに使ってここまで上がってきたのだろう。そして、開いていた片方の手で俺の部屋の壁をぶち破ったのだろう。
 そこから察するに、こいつはきっと、自分の能力をほぼ完璧に使いこなしているのだろう、中途半端にしか使えない俺とでは、残念ながら大違いだ。
 だが、ここは俺の部屋だ。全て見知って、何処に何があるかもほぼ完璧に理解している俺の部屋だ。そこであるならば、俺にも勝算はある。
 俺は、目の前に散らばった瓦礫から、なるべく大きな物を拾って、投げた。全力で投げたそれは、手を離れたその刹那にワープし、投げた勢いそのまま、爆発男の顔面を襲った。
 この部屋のすべての空間を、俺は間違いなくこの瞳に写っている。その部屋が、いくら爆破されて様変わりしようと、俺の部屋であることに変わりはないのだ。
ならば、俺が投げたものはこの部屋の中であれば、俺が思った位置に、間違いなくワープする。
「ってえ……何するんだてめえ!」
 荒っぽい口調で、爆破男入った。鼻からは、血がだらだらと流れている。しょうじき、鼻の下だけが真っ赤に染まっているその姿は、あまり格好良いものではない。
「ッ……!」
 怯んだ男に向かって、俺はもう一つ、瓦礫を放り投げる。だが、さすがに同じ手が二度も通じるわけがなく、男は両手で小規模な爆発を起こし、その衝撃で後ろに飛んで攻撃を回避した。
「次は、こっちがやらしてもらうぜ」
 爆発音とともに、不意に、男が消えた。なんだ? そう思った一瞬、腹に物凄いし衝撃を感じて、そのまま後ろへ吹き飛んだ。
 吹き飛ばされながら俺がいたところを見ると、其処には体制を低くした状態で、先ほどの男が立っていた。
 なるほど--俺は理解した。今の一瞬、男は小規模な爆発で勢いをつけて、俺の懐へ飛び込んだ。そして、そのまま俺の腹部で爆発を起こしたのだろう。
 それらを理解すると同時に、俺は思い切り、壁にたたきつけられた。口に、一気に鉄の味が蔓延した。口の中が血であふれていた。多分、内臓もいくつかぶっ潰れているだろうし骨も、何本か折れている。多分、この状況からまともに立つことも難しいだろう。 
 正直に言って絶体絶命だ。だが、意識はまだあるし、手はそれなりに自由に動く。しかし、この状況からの逆転のチャンスは、多く見積もって一回だろう。一回のアクションで、あの男を倒す方法
 俺は惚けた頭で思考を練る。何か一つ名案が浮かべばどうにかなるかもしれない。そしてそれは、案外あっさり、俺の脳内に浮かんだ。
 正直、こう意識が朦朧としてでもない限り出ないような大博打だ。失敗すれば、確実どころかトンデモなく無残に死ぬだろう。だが、正直に言って、それ以上の賢策は俺の頭には浮かんで来なかった。ただ、どっちにしろこのままなら死ぬだけだ。それなら、一発大博打を打つのも悪くない。
「……効いてねえよ。さっさと止め差しやがれ、このハゲ……」
 消え入りそうな声で、俺は奴を挑発した。案の定、奴はそれにノッて来た。
「其処まで言うか……なら、お望み通りとどめを刺してやるよ!」
 片手に力を溜めながら、男が近づいてくる。俺は、それを見計らって、近くにあった一番大きな瓦礫を手にとった。
 男が俺の顔に手を向ける。狙った通りの位置だ。あとの要因はひとつ、タイミングだ。
「てめえ、なかなかうざったかったぜ……。まあ、心配はするな、苦しいのは一瞬さ、すぐ楽になる」
 あばよ。男がそう言った。今だ--俺は思って、手元にあった瓦礫を思い切りぶん投げた。ぶん投げた瓦礫は、ワープして、男の力を貯めていた手の、その甲に、そのままの威力でぶつかった。
 手の甲に反対側から思い切り衝撃を受けたせいで、男の手首は、ぐにゃりと曲がった。そして、俺の方向を向いていた手のひらは、男の顔面を一直線に狙う格好になった。男の顔が一瞬にして青ざめる。
「糞があああああああああああ!」
 男が叫んだ。だが、爆発は止まらない。男が俺に当てるために放とうとしたそれは、男の顔面に向かって、思い切り爆発した。
 あまりにも凄まじい爆発だった。幸い、爆発は手のひらの向いている方向のみに被害をもたらすらしく、俺にはなんとか被害はなかった。
 しかし、何かが凄まじい勢いで俺の顔の横をカスって、壁にぶつかった。なんだ? 驚いて俺が横を向くと、其処には男の手の肩から先がが、ありえない方向に曲がって、壁にめり込んでいた。肩の部分は、猛烈な力で無理やりちぎられたようになっていて、正直凄まじくエグい。
 男の本体は--? 思って、俺は再度正面を向いた。すると、向こう側に、どうやらさっきまで男で合ったらしい物体が食い込んでいた。臍から上の部分は殆ど焼け焦げて飛散していて、とてもではないが人間であった頃の痕跡は見られない。驚くべき威力だ、これが自分に放たれていたら、と考えるとぞっとする。
 どうやら、俺はなんとか勝利したらしい。しかし、結局こいつが何だったのか聞きそびれてしまった。また、こんなのがやってくるのは勘弁してくれよ。ただ、この手のそれは、二人いたらそれ以上にいるというのが少年漫画のお約束だ。仕方がない、か。俺は思って、とりあえず今はこの状況をどうにかするべく、電話へと這った。




モドル

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