ただの悪夢


朝起きたら突然女になってました。そんな事、絶対あり得る筈ないのに、佐久間の今の状況はそれ以外の言葉では全く持って言い表せなかった。本当に何の前触れも無かったのだから、それも仕方が無い。
佐久間は朝起きて、何気なく自分の胸がいささか何時もより大きい事に気付く。
その胸の大きさに、まさか、と思いつつ彼処をさぐると、其処に有るべき筈の物が存在していないのだ。
その事に佐久間は酷く動揺した。とりあえず、着替えよう。話はそれからだ。そう思って佐久間は自分の洋服棚を漁る。数秒後、佐久間は絶句した。
理由は単純だ、彼の制服が全て女子制服に変わっていたし、下着も女物のみになっている。
佐久間は自分が一つ勘違いをしていた事に気がついた。
佐久間が女になったのではない、自分が女であると言うパラレルワールドに迷い込んだのだという事に。
そうなると、本当にどうしようもない事を佐久間は悟る。此処から変える方法も分からないし、どうすれば良いのか分からない。
とりあえず落ち着こう、そう思った時インターホンが鳴るのが聞こえた。
誰だろう、そう佐久間は考えた。もし、この世界が自分が女(もしかしたら男女船員逆かもしれないが)なだけだとしたら、自分が居る世界の事がそのまま当てはまる。そう考えると、平日のこの時間に家を訪ねてくる人間は一人しか居ない。
源田だ。
普段、佐久間は彼と一緒に学校へ向かう事が多かった。それも、どちらかと言うと寝坊等が多い佐久間を、源田が迎えにくると言った体で。
走行考えてるうちに親友(この世界ではどうか知らないが)は入るぞと一言言って部屋に入ってくる。
源田に鍵を預けているのは、この世界の佐久間もしている事らしい。
「お前、早く着替えろよ……遅れるぞ?」
早々に佐久間の部屋に入って来た源田が、まだパジャマ姿の佐久間を見て言う。
源田は何も変わっておらず、相変わらず男のままの源田だった。そんな源田にふと、佐久間は質問をしてしまった。
「なぁ、源田・・・俺って女だよな?」
言ってしまってから、佐久間は自分の失態に気付く。女の口調どうこうという問題も有るが、質問の内容が可笑しすぎる。コレならいくら鈍感な源田でも、さすがに気付く筈だ。
「どうした?熱でもあるのか?」
しかし、そんな佐久間の心配も他所に、源田は近づいて来て佐久間の額に手を当ててそう言った。どうやら、こう言う無頓着と言った所は相変わらずらしい。
ただ、取りあえず佐久間は自分の口調がこのままで良いという事が分かった。
こっちの世界の佐久間も俺を一人称とし、男言葉を使っていたようだ。女の自分がこんな言葉遣いをしてるのは言っては難だがショックだったが、自分が無理に女言葉を使うよりは十分に楽だ。そう思って佐久間は、この世界の自分に感謝した。
そんな時、源田が叫ぶ
「佐久間!急いで着替えろ!朝練遅刻するぞ!」
彼の言葉に、佐久間は焦って着替えを開始した。無論、源田を閉め出して。



何とか女子制服を身に着けて佐久間は源田とともに学校へ向かう。
やっぱり足下がスースーする。それも当然だ、スカート等履いた事無いのだから、馴れていないのも当然と言える。
無論、下着を付けたりするのにも相当な時間がかかったし、ブラに至ってはまともに付けられてさえ居ない。
そんな風に若干乱れた制服を着ながら、佐久間は源田とともに学校に向かう。
コレでカップルに見られなかったら、むしろ不思議だろう。男の自分である世界でも、しょっちゅう私服で源田と歩いてるとカップルに間違われるというのに。
「ヒューヒュー、お熱いですね、先輩!
そう思ってると、冷やかす声が聞こえる。成神だ。
彼は俺達の事を若干小馬鹿にしたような感じで冷やかすと、そのまま校舎へ走り去って行った。他の帝国メンバーの性格も変わってない様で、佐久間はひとまず安心する。
そんなこんなしてるうちに、部室に付く。そうだ、そう言えば自分は此処で何をしているのだろうか?そう源田に問いかけると、源田は笑って
「おいおい、帝国学園史上初めて女性レギュラーの座を勝ち取った天才FWが、何を言ってるんだ?」
と言う。仕方なしに佐久間は女子更衣室へ向かう。確かに其処には佐久間の背番号である十一が刻まれた女子用ユニフォームが、きっちりとおさめられていた。



それから流れるように練習と授業、放課後練習が終わり、佐久間は帰りに源田を自分の家に呼んだ。自分の事を話して、どうすれば良いかを尋ねたのだった。すると、源田はそんな事関係無しに、衝撃的な事実を口にした。
「何だ、そうだったのか。そりゃあやけに冷たい筈だな、何時もはデレデレの恋人なのに。」
源田が何て言ったか佐久間には一瞬分からなかった。落ち着いて彼の話を聞いてみると、どうやらこっちの世界の佐久間と源田は恋人同士らしく、それももう一年にも及ぶ付き合いらしい。
その言葉を聞いた途端、佐久間は何だか知れない苛立のような物を感じた。
よりによって何でコイツをこっちの世界の自分が選んだのだ。このだらしなく、どうしても認める事の出来ないコイツを。そう、佐久間は今すぐにでもこの世界の自分を怒鳴りつけたい衝動に駆られた。
「佐久間・・・おい、佐久間!そんなに俺とお前が付き合ってる事がショックだったのか?」
「当たり前だ!今すぐにでも死にたい気分だ!」
佐久間は思い切り源田に怒鳴り返す。すると源田は、そうかと言っていきなり佐久間を押し倒して来た。
「ってお前何して……」
「お前が認めなくても、こっちのお前と俺は付き合ってたし、こう言う事もやってたりするんだ。」
そう言って源田は佐久間に顔を近づける。佐久間は、何だか知れない何かに急激に襲われて、目を閉じた。


「う〜ん……うわあああああ!」
叫び声とともに目を覚ますと、其処には佐久間の見慣れた景色が広がっていた。
念のため自分の胸と、彼処を確認する。きっちり物が有る事が分かって、佐久間はほっと安堵した。何故あんな夢を見たのだろうか?よりによってあんな悪夢を。そう考えるが、佐久間の頭に答えは浮かばない。そうこうしてるうちにインターホンが激しくなる音がする。
「佐久間!急げ!朝練に遅れるぞ!」
激しく源田の怒鳴り声が聞こえる。目覚まし時計を見ると、時計の針は七時半を指している。
急いで佐久間は支度をすると、部屋を飛び出し玄関へ向かった。とりあえず今日一日は上手く源田と話せないかな、等と考えながら。




モドル


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