土佐弁サンタ


 クリスマスを祝うなんて甲斐性が、恐らく雷門のメンバーの中では一番無いだろう錦が、サンタクロースの格好をして現れた事に、水鳥は正直、驚きを隠せなかった。
「たくお前、なんつう格好してんだよ錦!」
 勿論ためらいもせず、水鳥は錦にそう問いた。錦は少し恥ずかしそうな顔をして、言った。
「いやあ、倉間達と一緒にくりすますぱーちーをしてたんじゃがな、ちょっとげーむで負けてしまったぜよ。それでまあ罰げーむでこれ着て水鳥のとこに行ってこい言われてしまってのう」
 相変わらず片仮名語が平仮名にしか聞こえない発音で錦が言った。聞き取り憎いそれを水鳥は何とか脳内で整理する。どうやら錦はサッカー部の一部の二年生のパーティに参加していてその罰ゲームでこんな格好で水鳥の家へ来る事になったらしい。そしてその発案者は、倉間。
 全くあの糞チビは一体何を勘違いしていると言うのだ! 今度会ったらただではおかないからな! そんな叫びを心の中で叫ぶと、錦が何かこの世の物ではないような恐ろしい物を見ている様な目で自分を見ていたのがうっかり目に入った。
「お前はなんつう顔で乙女の顔を見てんだよ、龍馬!」
 その一言ともに、水鳥は彼の股間に強烈な蹴りを繰り出した。勿論、ただの八つ当たりのそれなのだが、その一撃を食らった錦は、股間を抑えたまま地面に転がって悶えている。口からは「この痛みは……男にしか……分からん……ぜよ……」なんていう言葉が、口から虫の息の様に漏れている。
 しかし、どうするか。言われてみれば錦も倉間のいたずらに合った被害者みたいな物だ。それに、いくら正体が錦と言えども、股間を抑えて悶絶しているサンタクロースを子供が見たら、幻滅するのも良い所だろう。幸い、仕事が忙しい親は今日も家には居ない。もし居たら、即刻冷やかしが飛んでくるだろうから蹴り飛ばしてでも追い返しただろうが。
「とりあえず家、入るか? 今日は親も居ないし、ケーキ程度なら有るぞ」
 そう言うと錦は嬉しそうな顔をして立ち上がった。まあ無論、依然として股間は抑えていたのだが。そんな時、錦が一言、不思議そうな顔をして水鳥に向かって言った。
「しかし、おまんがそうまで優しいと何だか不安になるのう。ケーキに読でも入っとるんじゃないかと」
 言い終わる前に、錦の股間を再度鋭い蹴りが襲った。錦は再度股間を抑えて「今ので……絶対に……一個は……逝った……ぜよ……」と息も絶え絶えに告げる。先程に比べて明らかに症状が悪化してそうな彼を見ながら、水鳥は仕方なく、手を差し伸べた。その手を疑いの視線を向ける彼に、水鳥は告げた。
「お前に家の前でうめかれると、変な噂立っちまうだろ? うめく暇が有るなら、とっとと家に入れっての!」
 錦は「おお、おう」と言葉になっているか良く分からない答えを返すと、水鳥の手を取った。水鳥は彼を家へ引き込むと、即座に家の周辺を確認した。幸い、ご近所さんの姿は無い。その事にほっとして彼女はドアを閉じた。そして、依然として股間を抑えたままの褐色肌のサンタクロースに、向き合った。すると突然そのサンタは思い出した様に口を開いた。
「そういや倉間が言っておったのう……なんじゃっけ“つんどら”、だったか、“つんでれ”だったか。水鳥おまんはきっとそれぜよ。倉間が言っとった特徴にもぴったり一致しちょる」
 そう告げて、満面の笑みを浮かべた彼に、本日三回目の蹴りが飛んだ。



落ちがなんか微妙。そして土佐弁ってどう書けば良いんですか教えて下さい。倉間はこの二人がいい雰囲気なの気付いてそうだよなあなんて思ってます。ぶっちゃけクリスマスとか興味なさそうな錦くんで書くには、こうするしか無かった。

モドル
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