「‥三代目様‥ご決断を」

己らの主である三代目を前に暗部たちは目に見えて当惑していた、一夜にして滅んだうちは一族の事件は瞬く間に里内に広がり、その処理に当たった彼らはその悲惨な光景に里人以上に狼狽を隠せない。

守っていたはずの木ノ葉での今回の残虐な出来事は、何も知らない者たちの目にはあまりにも惨かった。

「お前たちは任に就け、あとはワシが」

暗部たちが姿を消して残るのは、三代目火影と一人の暗部だけ。

すでに面は外されその体は血に濡れている、全身に巻き付く鎖には呪符が絡み力の根源でもあるチャクラを完全に封じている筈なのにその男は全く動じてもいない。

彼は閉じていた瞳を開いた、闇の中で光を放つその瞳は、このような状況であるにも関わらず一切の感情も現さない無機質な色を持ち、真っ直ぐに猿飛を捉えていた。

「‥‥十夜、お主に炎部の印を刻む。」

その言葉に十夜は口端を上げ、静かに嗤った。
それこそが欲していた言葉だとでも言うように、ひっそりと。










光を知る者こそ闇を知るべきだと聖者は言った






 



‥‥コツッ‥

「ここが瑠璃の間か」

火影邸の地下、長く続く階段を降り切った所で十夜が声を発した。

壁だけでなく、床や天井全てに彫り込まれた紋様が青く光り猿飛と十夜を包んでいる。今も巻かれている十夜の鎖はそれらを反射し、十夜の言葉に振り向いた猿飛は目を細めた。

「‥何故お主がその名を知っておる」

猿飛でさえこの部屋に入るのは二度目だ、炎部の印を刻む華証の儀でしか使わない瑠璃の間の存在を知っているのは火影の名を冠する者と、里の上層関係者だけのはず。

勿論十夜はそのどちらでもないのだがそれを猿飛が知るわけもない、ナルトの護衛任務を任せ暗部としての任務を与えているとはいえ、十夜と言う人物の事を猿飛は何もわかってはいないから。

いや、気付いていないと言った方が正しいか。

――ッパン!

「“いかなる術も無効化される”か、確かにそのようだな。」

突如乾いた音を立てて十夜の身体から鎖が落ち、絡んだ呪符も燃えて消えていった。

「この程度の術は弾かれる。」

火花を散らしながら舞う呪符の切れ端を見て蔑視するように笑った十夜は、戒めを解かれた腕を軽く持ち上げ拳を強く握った。
にぃ、と笑みを見せた瞬間抑えられていた十夜のチャクラは禍々しい姿を垣間見せて一瞬にして離散した。

冷たい深海を思わせるその瞳とは対象的に、触れるもの全てを溶かしてしまいそうな程の赤いチャクラ。

どこかで見た事があると、猿飛がその答えにたどり着く前に十夜は物珍しそうに周囲の壁を見渡した。

「壁の紋に術を封じてあるのか、これはいつの時代のものだ、随分と古いな。炎部の歴史が割と浅い事からして華証の儀の為に作られたわけではなさそうだ」

「十夜、お主何を‥」

「いるんだろここに。」

猿飛の言葉を遮って声を放つ十夜には何かが見えているようだった。

「出て来い。立ち合いとやらが必要なんだろ」


――三代目も案外頑固なんだなあ‥

――上層の立ち合いが必要なのに俺と二人っきりでって押し通したんだろ


十夜の声を聞いて猿飛の中で葵の声が蘇った、炎部の任務に出てから消息を絶ったままの葵は今も生死すらわからない。

内密に調査させてはいるが葵の足取りも掴めない、それは葵の忍としての能力の高さを証明すると共にそれ以上痕跡を辿れないという事でもあった。

暗殺対象が全員この世を去っている事は確かであり、国主の一族全てが惨殺された事実は各国を震撼させた。手を下した暗殺者の正体は不明、裏で糸を引いている者が誰なのかも明確にはされず時だけが過ぎている。

「たかが一人の忍風情が、よくもまあ我らにそのような口が利けるものだ」

「身の程を知らぬその生意気な口を封じ、持てる力を使いその命ある限り里に従事せよ」

十夜の声に応える様に現れた影は深く外套を羽織りその姿を見る事は出来ない、所謂里の上層部と呼ばれる彼らだ。今まで猿飛以外の前で姿を現したことはないのだが、この場に姿を現すという事はそれほど炎部が重要であるという事だろう。

驚異の能力を持つ忍、それを里に留める為に呪印で縛る。うちは一族が里に一人を残し滅んだ今、木ノ葉に炎部は必須だった。

緋炎の消息が分からない今は十夜の身を縛ることが何よりも優先される。うちはイタチに命じた一族への抹殺指令、その秘密を知りイタチに差し向けた追い忍をことごとく倒し圧倒的な力の差を示した十夜の力が必要なのだ。

「単に利用価値が高いってだけの話だろ、見栄張ってないでさっさと印とやらを刻んだらどうだ。」

「この‥ッ若造が!猿飛、早うやらぬかっ!!」

怒声など気にすることなく十夜は再び壁の紋様へと視線を向けている。
ナルトと共に書庫に入ることも多い彼だったが、ナルトの為よりは案外十夜の方が興味を持っていたのではないかとその姿を見て猿飛は思った。

炎部への印を受け入れる事に対して十夜がどう考えているのか猿飛は知らない。何を思いうちはイタチへの追い忍を潰したのか、どう機密を知ったのか、それらに関して十夜が今後問われることもないだろう。

「華証の儀を執り行う。」

猿飛の掲げた指に赤い炎が灯り、周囲に文字が生まれ出て、結ばれる印に絡みつく様に流れる文字は揺れ、十夜の腕へと巻きついて行く。

「――これがお前らの言う呪印か」

文字に灯る炎は木ノ葉に眠る火の意志だとも聞く。熱を発して暗部の印を囲むそれ、皮膚に焼き付き体内へと入り込む。

――こんなものか。

声には出さず、消えて行く炎を見つめながら十夜は思う。

そして己の体内の変化を感じ取り、猿飛にわからない様微かに口角を上げた。

どうやらここが、引き際のようだと。



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