護衛とも監視とも違う、同居しているとも言い難い。

その存在は自分が”生まれた時”からずっと傍に居て、彼がいなければ自分はこの世にいなかった。










別れの挨拶などいらない










小さな、ほんの小さな揺れがナルトに伝わって、今日という日をいつもと同じように眠りにて閉ざそうとしていた意識を覚醒させた。

傍に居てくれると安心する。そう例えるには彼はとても厳しくて、どちらかと言えばその視線を向けられるだけで委縮してしまうような、ナルトにとって彼は、十夜はそんな存在だった。

それでも、離れるのは心細い。
だから今夜も任務に出る十夜の姿を追いかけて、声を掛けようかと迷った。

ナルトが容易く声を掛けれるような相手じゃない。だから、迷った。

口をゆっくりと開く、しかしナルトに背を向けたままの十夜は振り向かずに容赦のない声で言うのだ。

「来んな」

反論も意見も何も言えずナルトが小さく俯くと、それと同時に月色の髪が微かに揺れた。

寂しいのだとナルトの小さな瞳が訴えても十夜はナルトに向き直る事などしない。
そしてナルトの瞳が徐々に床を映しだした頃には十夜の姿はすでに結界の外にあり、気配さえも掴めなかった。




(弱い器だ)

ナルトの護衛に就いた時から十夜が作り出した高度な結界は綻びさえ見当たらず、刺客を誘い入れる為の小さな穴を閉じてしまえば十夜が戻るまでは誰一人としてナルトに触れることは出来ない。

三代目の案によりアカデミーに通い始めたナルトは、今まで滅多に目にすることの無かったその姿を里人の前に晒すことになると同時に、今まで以上の憎しみをその身に浴びる事になった。

戒厳令により表立って傷つけて来る者はいない、影で何を言われても耐え、無駄に笑顔を振りまく器は何を考えているのか、その行為全てが数年前の九尾の事件を人々の心に蘇らせると言うのに器は普通の子供の様に振る舞っている。

宛がわれたアパートに帰るたびに衣服は血に濡れて、「修行したんだ」と笑って答えて翌日も飽きもせずにそう言うのだ。

木ノ葉でその名を知る者はいない、厄介者の九尾の器。

――ッザン、ッザク!

「ふん、バカな奴」

里から遠く離れた地で任務を遂行しながら十夜は面の下で呟いた、己がどう言われているのかわかっているんだろうかあいつは。

悪戯好きのバカで頭の弱い能天気な九尾の器、各里との均衡を図る為に必要であるはずの九尾は器ごと闇に放置され、いっその事消えてくれればいいと、人はそう口にする。

「そういや友達が出来たとか言ってたか」

九尾の襲来を経験していない、若しくは記憶にない幼い里の子供たち。
三代目の思惑は正にそこにあるんだろう。

「友達ねえ‥‥」

――ッザシュ!

十夜の前で血が爆ぜた、細かな血の滴一粒一粒に自身の姿が映っていることを瞳で捉えながら十夜は後ろに跳躍し、また新たな命を屠る為にクナイを一閃し印を結ぶ。

断末魔など十夜の耳に入りはしない、そんなものに価値は無い。
欲しいのは自分の力を感じるその一瞬と、命が散っていくその様だけだ。

「奈良シカマル‥犬塚キバ‥秋道チョウジ‥‥」

アカデミーから帰るなりナルトが部屋で呟く名前を一人ずつ挙げていく十夜はその度に命を一つ、消していった。

「‥‥‥‥‥うちはサスケ‥」

――ッザン!!







「うちはサスケはライバル、らしいぞ。」

静寂に包まれたその場所で十夜は唐突に口にした、そこに立っているのは十夜ともう一人の暗部だけで、まるで時が止まっているかのような薄気味悪さを帯びている。
十夜のその声が無ければ、本当に時がと‥そう思ってしまうほど静かだった。

木の葉隠れの里の端、うちは一族の住むそこを冷ややかに見下ろしながら十夜はまた口を開いた。

「お前の弟は随分と優秀のようだしな、兄として鼻が高いだろう?」

嘲笑を交えながらの問いかけにイタチは返事をしなかった、十夜も返事など欲してはいないのだろうから。
イタチの反応が見たかっただけだとしても、イタチもまた何も表に出すことはない。

「つっても、生き延びられたこの時は早々続きはしないだろうがな。」

近い将来身に秘めた写輪眼を狙われて殺される。瞳を抉りだされた死体すらも利用されるだろう、生き残った最後のうちは一族を欲しがる輩は少なくない。

「他は殺れても、弟は殺れなかったか。」

イタチの顔を覗き込むように十夜が顔を近づけた、互いの吐息が掛かるほど近くこの暗闇でも瞳の中に映っている姿が見えるくらいに。

「俺が里に戻るまでに終えているとは思わなかったけどな。約束したのに、ひでえ奴。」

すねた子供の様に言う十夜は目を細めて小さく笑った、うちは一族に恩も恨みも無いが木ノ葉で長く続く一族が終わりを迎える瞬間は些か興味があったから。
それももう終わってしまったけれど。

「『約束』などしなかった。」

「はははっ、まあな。でも俺が来なけりゃそのまま姿眩ますつもりだったんだろ。」

風に乗って漂う血臭が二人の鼻を突いた、鉄臭い中にもすでに腐臭が混じり死臭が里内に広がるのも時間の問題だった。

「‥十夜はどうする」

「残る。」

きっぱりと言い切った十夜はイタチから離れて視線を遠くへと飛ばした、里の中心から真っ直ぐにこの場所へと向かってくるいくつかの気配は何か、考えなくてもわかったが。

「追い忍だ。」

「距離は?」

「近い。十夜は身を隠せ、追われるのは俺だ。」

こんな状況下でも正義感ぶった奴だと思いつつ、十夜はその場から立ち去ることはしなかった。

里の未来の為だと、そう言い切って自らを犠牲にすることがどうにも十夜には理解出来ない。
理解する努力もする気は無い、そういったものは説明されようが分からない。自分で感じ取らなければ、きっと意味がないものなんだろう。

「時間稼ぎしてやるよ、今日の任務は些か手応えが無さ過ぎたからな」

ゆっくりと狐面で隠されていく十夜の顔はイタチには見えず、それらから何かを読み取ることは出来なかった。
いつもと同じように輝く蒼い瞳は追い忍が走る地を見つめていて、もうイタチには向けられない。

「――行け。」

静かに遠ざかるイタチの気配とは反対に、隠すことの無い強い殺気を撒き散らして追い忍たちが十夜のいる場所へと迫っていく。

何が起こるか知っていた癖に、うちは一族が随分と前から画策していたことも掴んでいてそれを止めようとはしなかった。

(全て知っているのだと僅かにその情報をうちはに流して、わざわざ刺激するなんて用意周到な事だ。)

正々堂々とやれと十夜が言える事ではないが、それを手助けするつもりがあるわけでもなかった。
十夜の実力を知っていて今夜他の任務をぶつけてきたのだから、実際は関わってほしくは無かったんだろう、素性の知れない忍には。

「さあ、どうしてくれようか」

十夜はそっと狐面に触れ、その冷たい感触を楽しむかのように面の下でにやりと笑った。
その手が面から離れた時には十夜の姿はかき消えて、向かってくる気配に向かって風を切るように駆けていた。

「腐った里だ、これ以上俺に相応しい場なんて他にないんだろうな」

壊さなくても、見ているだけで崩れていく不安定な地は、それだけで‥



「――面白い」






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