裸のまま立ち尽くす茉莉は、濡れた髪から胸元へ流れる雫を指で払った。
「…どうしよう」
話すなと言われたけど…これは仕方ないよね。
タオルをくるりと体に巻き、濡れた髪そのままに茉莉は歩き出した。
深い深〜い困惑
シカマルとナルトの隠れ家に着いてから、まず考えよう!と考え始めた茉莉は、ソファに座り込んでとにかく考える。
“キスでチャクラを回復させる”
なんって問題のある能力なんでしょーか、どう思いますか皆さま。
私は見てるのが好きなのデス!安全地帯から見て、ドキドキウハウハするのが好きなのデス!!
初チューは火影邸でナルトと出会った時にって言うか、顔見る前にキスしちゃってたし。
よく考えたら落ちるとこ違ったら火影様としてたかもね…キス…………あっぶねぇぇぇデスヨォォォォ!!
セカンドチューもナルトと…
でもこれは茉莉の能力を確かめる事が目的だった、本日三代目に報告していた事からして、間違いない。
…かなしー……‥
これがただのお話だったんならなんておいしい設定なんだと思うのに、なんで私!なんっで私!!
こんなんじゃ身が持たないでしょ。あんなかっこいい人たちに囲まれるなんてアリエナイ…チキンハートはすでに丸焦げで炭になり、風が吹いただけでこの里中に塵となって飛んでしまいそうだ。
しかも口外禁止と三代目は言ったが、もしバレたら違う意味で危なくね?とぞわりと茉莉の背筋が凍った。
他里云々よりこの里の中でもさ、危なくね?と。
だってそしたらみんなでキス…死ぬ…。
ゆらゆら揺れる紅茶の湯気の先では、これまた原作の登場人物が額に手をあて何やら苦悩の表情を見せている。
原作でも苦労性なシカマルは、スレナルの世界でもやはりその質は変わらないようだ。
まだ一日だけのナルトとの付き合いだが、茉莉からしてもあの金髪少年の傍若無人振りは立派なSっぷりを証明していたから。
きっと毎日悩みが絶えない事だろう、かわいそうに。
と、茉莉には思われたくないだろうにシカマルも。
とにかく、とここで茉莉はある結論に達した。
能力バレないようにしなくちゃ!と。
傍観者としての位置をなんとか確立させるんだ私!茉莉は粉々になる寸前の自身のチキンハートをかき集め、ガムテープで止めるような勢いでガッツポーズを決めた。
では次の行動に移るんだ!!ファイッ!!
「……あ、あの〜シカマル?」
声をかけても反応してくれない、そんなシカマルの傍に寄った茉莉はその端整な顔を覗き込んだ。
余程疲れてるんだろう、ひどい毎日に違いない。
ナルトが上司らしいしそりゃ疲れるよねー。でも二人でお仕事って…ぐふふ、ステキ。
実際は茉莉の出現によって気力だけでなく生命力も奪われていってるような気がしてならないシカマルだが、茉莉が気付くわけもない。
彼女なりに必死で相手を思いやり考えてることだが、取り敢えずずれていることに気付いていないのが問題だろう。
「うわっ!」
………なぜ驚く?若干傷つくー。
傷ついちゃってもチキンなのは変わらない。
しかぁし!どうしても連れて行ってほしい場所があるのだ茉莉には!!
そして恐る恐るシカマルの手を握る、茉莉の心の中は大絶叫だ。
ぬぉぉぉ!イケメンの手触っちゃったぁ!!自分から!?すっごいわ私!オーマイガッデス!!
何故だか言葉がどもってるシカマルだけどそんな姿もかっこいいよー。
イケメンってお得だね!
「シカマル………」
「お風呂に入りたい。昨日入れなくて…」
「………はぁ!?」
………‥‥疲れる。
「…ここ。………風呂はここ!全くなんなんだよほんと…焦った……」
「ありがとシカマル。んで聞きたいことが……」
「やめろ!話すな!お前が話すとややこしくなるんだよ頼むぜめんどくせー…」
一体何事かと思ったら風呂かよ!なんだあの女…自分の事女だとわかってんのか自覚あんのか!?
“シカマル……”
あんな顔して覗き込んでくんなよって……はぁもう…疲れる意外にどうしろってんだと、本日何度めかの現実逃避についに脳がショートしそうだった。
リビングに戻ってきたシカマルはダラッとソファに凭れかかる。またひとつ溜息つきたくなった。
手を握られた時はマジで焦った、あんな柔らかい手は忍にはないから。
…あいつはナルトのなんだってんだ。
ナルトの女遊びは今に始まったことじゃない、形は整っていても頭は空っぽで暗部総隊長と言う地位にある虚空に擦り寄る低能な女ばかりだが。
ナルトはこの家に女を入れても泊まらせたことは無いが、さっきの茉莉の口振りからすると茉莉は泊まってったようだし。
「あーわっかんね!」
下手に首突っ込むのはやめよう後が怖い。
与えられた任務だけやっときゃいいだろう。
…メシの準備でもしてるか……米しか炊けねーけど。
さっさと寝てもらった方が自分の為に良さそうだ。
あいつが居ると精神的にヤバい気がする。
話すのをやめさせておけば自分は無事だと思ったが、さっきの「聞きたいことが…」の続きを聞いておけばよかったとこの数分後に猛烈に後悔することになった。
ペタペタと足音が聞こえてきた時、嫌な気はしたんだ。
裸に一枚タオルを巻きつけて来た女を見た瞬間、シカマルの全てが停止した。
風呂で温まった白い肌は桃の色に彩られ、髪から滴る水音がいやに耳に付いた事だけを覚えてる。
「さっき着替えのこと聞こうと思ったんだけど…」
…え?俺が悪いって言うのか?
この女が口から出す言葉に重要なもんが含まれてるなんて思うわけねーだろ!!
「……ごはん作ってるの?…シカマル…大好き!!ごはん大好き!!」
「来んな!なんか着ろっ!!」
「だって!お着替え無いんデスよー!!」
「ぎゃああああ!」
絶対に、茉莉に女の自覚なんて無いはずだ。
タオル一枚体に巻き付けて、そんな状態で男に近づく女なんていない。
下心もなく無意識で天然なだけタチが悪い、茉莉が朝食をゲロッて空腹状態が続いていたことを知らないシカマルだが、それを知っていても同じ結論に達しただろう。
護衛対象だがこいつを殺したいと思う奴がいてもおかしくない、きっとひどい精神的苦痛を味わったに違いないと。
ナルトからどんな内容の話があるか知らないがどんなもんにしろ並みなもんじゃなさそうだ。
ナルトがこんな女を傍に置くこと自体がまずありえない。
「服…着ろっつーの!」
「服ナーイ!!!」
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