「「お?」」

ばったり会った。

「「なんだよ今帰り?」」

家の前で会ったシカマルは疲れ切っててナルトは衣服だけがボロボロだった。
お互い気分的にはどんより、もそもそしながら家の中へと入って行った。










乙女の秘密は秘密です










「そんで俺には言えない飲み屋だか何だかで嫁だなんだと騒動に巻き込まれて他全員適当に伸して帰ってきたのか‥ひでえ‥」

「文句あんのか」

「アリマセン」

俺疲れてるんだけどな、合同演習で。なんて事はナルトに通用するわけもない。
武器に術にトラップなんでもありの下忍強化の合同演習、何が疲れるかって‥『監視』と『適度な補助』と『死なない程度の攻撃しかも寸止め』。

(今年の新人は力加減のコントロール皆無、なんであんな奴ら合格にしたんだアカデミー教師‥ッ)

下忍の中でも先輩なうずまきナルトも無駄に動いてくれて面白がって引っ掻き回す。
お互いかなりの疲労が溜まってるはずなのに、目の前でソファにゆったりと座り込むナルトは影分身のダメージを吸収してもそんな素振りも見せてない。

「茶が飲みたい。」

「‥‥‥‥‥はいはい、っかりましたよ。」

目線すらも寄越さずに呟くナルトの言葉に立ち上がったシカマルはいつもは茉莉がいる筈のキッチンへと向かう。
なんか茉莉がいないと随分こざっぱりと見えるなと思いながらも、こぽこぽと沸かした湯を湯呑へ注いだ。

「そういや茉莉は?こんな時間にいないの珍しいよな」

「‥は?」

「いや、茉莉っていつもこの時間夕食の準備してるだろ。」

「茉莉‥‥?あれ?」

きょとんと返事をしたナルトの視線がふわーっと部屋全体を見渡した。
これぞ目が泳ぐというやつか?ナルトのこんな状態素では見た事ない、心底不思議な違和感だ気持ち悪いとシカマルはウゲッと喉を鳴らした。

「‥‥なんだよマジで気付いて無かったのか。」

「っせえな考え事してたんだよ悪ぃか!!」

「めずらし‥」

「茶ッ!!」

「っはいはい、たくもー‥で、何考えてたのか聞いてもいい事なのかそれは」

渡した茶をズズッと飲んだナルトは「まず‥」と一言、そりゃ茉莉の入れる茶に比べればと思いながらシカマルはもう一度キッチンを見渡した。

茉莉がいなければこの家の造りはなかっただろう、前の隠れ家での茉莉の行動を観察して茉莉の意見を取り入れて出来たこの家は、ナルトなりの細かな配慮が行き届いているのがシカマルにはよくわかる。

「‥別に大したことじゃない」

茉莉の事かと、なんとなくピンと来てしまったのはナルトと長い付き合いのシカマルだからこそ分かる事なんだろうか。
茉莉と出会って驚くほど丸くなったナルトは、今までブレることの無かった自身を引っ掻き回されつつもそれを受け入れてる、しかも無理矢理ってわけでもない。

――私の事好きなの?

――そう言ってるだろ

人に好意を持つって概念自体がナルトにはなかったんだから当たり前だが、あの後も一騒動二騒動。
茉莉の『好き』はまさしくそう言う事なんだろう、茉莉の言葉で言うならライクがラブだ。

ナルトが里を守る地位に就いているのも「他にやることなかったし」の一言からで、それ以上は聞けなかった。
シカマルの前でナルトから発せられたのは、体が硬直するほどに冷たく殺気の籠る声だったから。

――里をどうするつもりなんだ

――さあ、どうしようかな。

――‥なんで守るような事してんだよ

その先にある“無”だけを見て、まるでそれを願う様に。
何年も前の事なのに、ナルトと茉莉を見ていると時々思い出されるあの時の会話。

「なあナルト、茉莉の事ちゃんと考えて‥」

「やめろ、それ以上言うな聞き飽きてんだよこっちは!」

パンッ!
シカマルの頬を掠って飛んだ湯呑が音を立てて砕け散った音が響いた。
ナルトの瞳の奥に深い狂気の色が見えるような気がした、無表情の中にあるのは怒りだろう、殺気こそは感じないが重い空気の中でシカマルはヒュッと息を詰めた。

「口出しすんな、どいつもこいつも同じこと抜かしやがる」

成程、そりゃ腹も立つ。なんて暢気に考えられるほどの余裕はシカマルにはない。
ある意味茉莉以上に感情の起伏が激しいナルトによって全治○か月の怪我を負わされた暗部の隊員は多い、最近目にしなかっただけに耐えがたい緊張が室内に広がった。

「‥‥‥ッ」

ナルトの指が微かに動いた、思わず身構えたシカマルだったがなぜかナルトは動かない、圧迫感が消えたと思った頃にはいつの間にか先ほどと同じようにソファに身を委ね、いつものようにただ座っているナルトがいるだけで。

「ナル‥」

「たっだいまー!」

バッタン!

「こんな時間になっちゃってますが、お夕飯今から作るっよーん!走って来たんだけどなんか遅くなっちゃったもう真っ暗だねえ。」

「黙って家に入ることが出来ないのか馬鹿」

「静かだったよ、ドアの音聞こえなかったでしょー?」

「バーカ丸聞こえだっつの、玄関手前2m付近で石につまずいたことまでモロバレ」

「ぐぬぬ‥!でも馬鹿じゃない、もん!さてさて冷蔵庫、チェーーー‥‥‥シカマル何してるの?ダンス??んあ、合同演習お疲れ様でっした。かわゆい下忍たちはかわゆかったでしょー?今度見学行っちゃうもんね、かわいいもんね」

にゃははん、と笑った茉莉はくるんと回って冷蔵庫に直行した。
いつの間にか超特大サイズに代わっていた冷蔵庫の重い扉をガチャリと開け、顔を突っ込んで何やらブツブツ言っているのはいつもの事。
そんな茉莉に意識を向けるナルトもまた、いつもの事だ。

ああそうか、そうなんだ。

「茉莉、おかえり。」

「んん?なあに改まってシカマルってば、た、ただいま、デス。さてさて今日のごはんなーににしっようっかなーらららん」


――じゃあ‥なんで守るような事してんだよ

――内から腐ってくのは止めないってだけだ。外敵からだけなら、守ってやるよ。


ナルトは里に寄せる想いなんてなかった、いっそ過保護だと思えるような守り方で里を包んで、腐っていく里を一人笑って眺める。


「ナルト何食べたいー?」

「茉莉」

「ば、バッカじゃない!バカじゃんバカじゃん!いいもん、麺類にする。お野菜いっぱいのピリ辛でー」

「俺昼に麺食ったから嫌。」

「ええー‥まさか一人で一楽行ったの!?裏切り者ー!!」

「一楽‥まあそんなとこ。」

「行きたかったー!」

「今度な。」

「ぶー。」


崩れていく木ノ葉を嘲笑いながら自らの手で炎を放ち、里に死を与える。
でももうそんな事はしないよな、それだけははっきり言えるよ、ナルト。

知らず知らずのうちに茉莉を介して里を見て、知ろうとしなかった世界を知った。
もう壊せない。
茉莉が好きな里だから、腐っていくのさえも許せない。

「今日どこ行ってたんだ、こんな遅くまで」

「やーんナルト、気になっちゃう?うふっ、うふふふふふふ。――ごっくん。」

なんか飲みこんだ。

“今から隠し事します、今隠し事持ってます、絶対言わないもん”の顔だ。
勿論ナルトだって気付いてる、証拠にほら、米神に青筋立った。

ガタ。
――ッビク!

ああ、またなんかが始まりそう‥。




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