「ねえナルト、私ね、申し訳ないなって思ってることがあるの。」

「‥‥へえ、茉莉でも反省とか後悔することがあんだな」

日々崩れ落ちるような反省の姿を見てはいるが、と思いつつソファに座ったままでナルトは茉莉の方へと視線を向けた。
おお、何やら本気で反省モードらしい。と少し思うくらいには茉莉の表情は暗かった。

「うん‥‥」

窓辺で椅子に座りながら眼を伏せて、髪と同じ栗色の睫毛の影が茉莉の頬に落ちる。
いつもこうやって黙ってればマシな顔なのにと口には出さずにちらりと思ったナルトは素直に返事をする茉莉に若干驚く、しかしその後の言葉にはかなり引いた。

「青い狸と呼ばないで」

「‥‥‥‥‥‥‥‥はい?」

迂闊だった、返事をしてしまうなんて俺らしくないと茉莉と視線が合ってしまった瞬間ナルトは口を引き攣らせた。
あまりにも予想外過ぎて。

だって、何?青い狸って。

ふう、と窓辺で息をついた茉莉はゆるりと笑った。
それだけでも先ほどの言葉含めて気味悪いのに口を開けばさらに台無しだ。

「結婚したいなんて、幻想だったのデスよきっと。あの時は子供だったの、ずっとずっと毎週彼を待ったの。胸を高鳴らせて正座してその出会いの瞬間を待ち続けてその姿を認めた瞬間に心臓が脈打って‥それが恋だと思った。想い人がいるってそんなのわかってたけど恋しちゃったら仕方ないの。お父さんとお母さんにも紹介して、将来結婚するんだって‥諦めきれなかった。」

「‥‥‥」

少し前のナルトなら即座に茉莉を黙らせる為行動に移ったはずだ、なにせ内容に意味がない。多分。

連日の任務が災いしているのかそれとも茉莉との生活が長いからなのか、すでに目の前の女に関してツッコミは避けるべきだと脳が警報を鳴らしているのがナルトには聞こえた。
シカマルなら数分後には即死レベルの警報だろう、それを気にもせずに茉莉は語る、憂いを帯びた熟女かと言いたくもなるがナルトの引き攣った口は動かなかった。

「あの丸く美しいフォルム、例え耳があったとしてもその造形美は崩れる事がないと思う。というか耳があっても好き。身長がなんだって言うの?私より小さくても私より強い心を持ってたのに。今となっては淡い恋心とも言えないかも、あの時画面に向かって叫んだ言葉が今はもう叶えられないのですね、ほんとにほんとに彼には申し訳ない事をしたのデス‥‥」

茉莉の頬を流れていく光りを放つ滴はなんだろう‥あんまり考えたくない。

「彼の持つスペックに魅かれてた、きっとそうなんだって大人になった今は気付いてしまったのデスよ。高度な科学力なんだと一言では言い切れない道具の数々‥まさか‥まさかそんなオプションもどきに釣られて恋をしていると勘違いしてたなんてッ!!!アホだった!!デス!!」

――ッダン!と椅子の肘掛に拳を振り下ろす、余程の事柄らしいがやはり内容に意味はない。

「ごめんなさいドラ‥ぷわぁッ!‥‥」

「ごめん黙っとけ。」

立ち上がりかけた茉莉の体がナルトの手刀でどさりとまた椅子へと戻る。
目が覚める事には忘れてる、素晴らしく都合のいい脳みそだ、茉莉も特殊なスペックをお持ち。

「憧れるわ、そのぶっ飛び具合。」

溜息もつかずに無表情で言い切ったナルトはソファに座り直してくあ、と欠伸した。
数時間は目覚めないだろうから、少し休もう、静かに。
ゆっくりと瞼を閉じるその先では茉莉が眠ってて、その姿に苦笑しながら「ほんと馬鹿なやつ」と呟いた。

愛すべき馬鹿とはまさにこのことだろうか。
しかしあの理解不能な言動にいつか慣れてしまう日が来ると思うとちょっと怖いな、なんて思うナルトだった。




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