じり。

じりじり。

‥‥‥じりじりじり‥。

「茉莉、そこを動くな」

「い‥‥嫌デスヨぉ‥‥怖いもん、‥怖いもーん!!」

謀反側との戦いから一夜明けて半壊した城を朝日が包んでいく。
誰もが戦い疲れて立ち上がれない中、茉莉だけが全速力で城の中を駆け回っていた。










終わり良くても気に障る










「くそ、どこ行った。あいつ逃げ足だけは速いからな」

約束破りやがって、街に居ろって言ったのに。
ナルトにしてみれば随分と子供っぽい内容で怒っているわけだが自分は茉莉との約束を守ったのにこの仕打ちはなんだと思わなくもないわけだ、と普段は約束破りまくりの癖に守った時だけ強気なナルト。

結果的にはナルトの正体がばれる事もなく城へ攻め込んだ時の“茉莉”が影分身だと周囲に知られることもなかった。
今考えてみればもしかして茉莉の行動が『吉』と出たとも考えられる。

「‥‥納得いかねえ」

死んだらどうすんだ、あんな馬鹿でヘタレで運動神経皆無で微妙な度胸と火事場のなんとやらしかない奴、これからもそれが通用するとは思えないし多分通用しない。

「大人しくしてられねえのかあいつは」

ナルトは音もなく城の中を進みながら徐々に気配も薄く消していく。
影分身が城の復旧作業を手伝ってるだけに城の中でうろちょろしてるのを悟られたくはない。
それにこの件に関しては下忍任務であったと言うのに不眠不休で動いたのだ、全て片付いた後まで拘束されるなんて御免だった。

「問題はやっぱ茉莉だな」

くるりと角を回って長い廊下を進む、小さな声で呟きながら“目標”に向かってゆっくりと歩くナルトは耳を研ぎ澄ませ瞳に映り込む暗闇の中の変化に目を凝らし、意識はただ一人に向けてゆっくりと焦点を合わせた。

「チャクラも一般人並み、というかそれ以下。体の動きは鈍く物事の判断が著しく遅いが実行力は高い‥のに、成功率は極めて低い。」

――コツッ。
普段では決して鳴らすことの無い足音をわざと響かせたナルトは足を止めた。
城の最奥なのか、外で騒がしくしていた兵士たちの声もここまではもう届かないようでナルトの声だけが静かに響いた。

「まったく使い物にならないし期待もしてないけど身を守るくらいの力は付けておいた方がいいかもな。俺が行くまでの時間稼ぎにもならないだろうけど、なあ茉莉」

壁に凭れかかって軽く目を伏せたナルトは腕を組みながら呟いた、それで隠れてるつもりかよバーカと言葉を滲ませながら。

「‥‥‥それってひどい言いようデース」

ナルトの足元で小さく丸まっている茉莉はぷぅと頬を膨らませて、それでも事実だから否定する言葉すら見つからない。
逃げても無駄だってわかってたけどなんて思いながら別に真剣に逃げてたわけでもない。どうせ捕まっちゃうし。

「だってお前に期待するだけ無駄ってもんだろ、なんで俺が怒ってるかわかってるわけ?」

「‥‥んー‥ごめん」

やけに素直だし。
うずくまる茉莉の頭部を見つめながらナルトは眉を顰めた。
死んだと思ってた奴が実は生きてて無念だのなんだの言われれば茉莉の性格上無視は出来なかっただろう、そんな事はナルトだってわかってる。

(んじゃなんだ、俺が悪いってのか、コレガにしっかり術掛けときゃよかったって?)

「これからさあ、この国どうなっちゃうんだろうね。お城はぐちゃぐちゃだしカケルさんは死んじゃったし、脅されてたかどうかはわかんないけど謀反側についちゃった兵士さんたちとか色々いっぱい問題山積みだね」

「‥‥‥‥」

‥‥‥成程、茉莉の中でナルトが怒ってた件に関しては自分から素直に謝った事で決着がついたようだった。
まさかの自称無罪放免。思わず口端が震えたナルトだがまあいいやと切り替える。
茉莉に怒ってもしょうがない体力の無駄だ、憂さ晴らしはコレガにしよう。

「ナルトはどう思うー?」

と、茉莉はナルトがコレガに対する“憂さ晴らし実行リスト”を作り上げてることなど知らずに頭を傾けて見上げた。
真っ暗でも不思議とナルトだけは見えるのだから‥‥不思議だった。

「ミチルの奴がなんとかするんじゃねえの?案外あのしっかり者の嫁さんがミチルの事見直して戻ってくるかもしんねえし」

「そうなったらヒカルが喜ぶね!」

「そんなもん知るか。とりあえずお前は木ノ葉に戻ったらアカデミーにでも入って基礎力上げろ、今のままじゃミミズより弱ぇ」

「ミミ、ミミズ!?今回大活躍したのに!」

「ああいうのを馬鹿の無鉄砲って言うんだよ、手続きするから入れよ。」

「あーははん?意外とやれちゃうかもデース天才くノ一茉莉登場!!」

ついに来たね、死亡フラグ跳ね除けで最強忍コース!
何度か危ない目にあって来て「傍観者デース」とも言っていられない、安全に傍観するためにその席を確保すべく力を手にするべき!!

みかづき島から木ノ葉への帰り道、茉莉の頭の中はそんなことがぐるぐると回っていた。
傍観してるだけならそうしててくれと某金髪少年や某黒髪苦労少年は言うだろうが茉莉は自分の行動すら制御できない。
今回ナルトたちの戦いに飛び出して行ったのも本人にとっては「命を危うくする行為」ではなく「だってやらなくちゃと思ったもん」とこの程度。

ほんと言うと、めちゃくちゃ怖かった。
『為せば成る』とは生きてるからこそ言える言葉なのだと実感。

そして木ノ葉に戻った翌日、ナルトに言われるがままに裏口入学を果たした茉莉は「見てらっしゃい、ナルトをあっと驚かせちゃうんだから!」と意気揚々扉を開けた。

ぎゃふんと言わせてやる!
拳を握りしめて授業に臨む姿は立派なものだった、誰もがその気合いを買った。そして全力で応援した。

しかしまさか一日も持たずにアカデミーを後にするとは実際茉莉も予想外で意気消沈。

「がんばったのに‥‥」

茉莉は早々に帰宅。
巡り巡ってナルトの手元に届いた茉莉の成績表は散々なものだった。
二度とアカデミーに通えなんて言うことはないだろう。

「‥‥くそ弱ぇ‥」

溜息すら出ない。
ああでもこれが茉莉なんだと、ナルトは納得の頷きを繰り返した。















みかづき島編
end.





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