「‥‥‥‥‥‥‥‥‥まあ‥こんなもんだろ」
――ボンッ!
白煙が舞う中から出てきたのは『茉莉』だった、影分身に変化させたのではなく影分身を作り出す時に手を加えた特別製。
茉莉の言葉を借りるなら「料理にひと手間加えるだけで倍おいしいデース」ってところだ。
「どうなるかわかんねえけど」
そしてこれがあらぬ結果を招いた。
この『茉莉』の姿をした影分身の暴走まで、あと少し。
想定外の空色模様
「大丈夫デスよヒカル!私が絶対に守ってあげるからね!!目には目を!歯には歯を!悪には悪をぉぉ!!」
「茉莉さんなんかそれ違う気がします、そして少し声が大きいです」
「何言ってんのリー君!正面からドンと行くべきでしょ」
「いえ、正面からドンと行ってるのはカカシ先生たちです。彼らが奴らを引き付けてくれている間に僕らは僕らの仕事を」
月の国の城の中、カカシが正門で騒ぎを起こしている間に裏口から侵入した第7班とコレガのいないコレガの部隊。
どうやらカカシが引き付けているのはシャバダバの支配に下った月の国の兵だけで、雇われ忍は城の中で待ち構えているようだった。
「ほうらリーッ君!お相手が来ましたよ行ってらっっっさい!そぉぉぉいやッ!!さ、私たちは次にゴー、デス!」
リーの緑のジャージを掴んだ茉莉、人とは思わないその振り回すような投げ方で現れた忍コンゴウに向けてリーを放つ。
「お任せください!必ずや!!」とそんな状態で前向きに返答できるのはリーくらいだろう、しかし茉莉はそんな言葉は聞いていない。
「死に物狂いでぶっ潰せ、でないと殺す。」
そう吐き捨てて次の階段へと足を伸ばし、“茉莉”とは思えないような速さで階段を駆け上がっていく。
(‥ちょっとあいつの設定狂い始めてないか??影分身の癖に好き勝手しやがって)
どこからその自信が出てくるのか、ナルトの前を飛ぶように進んでいく茉莉はどこから敵が攻撃してきても問題ないと言わんばかり。
実際そう思ってるんだろう、茉莉の姿をしているとはいえナルトの影分身なのだから。
「サクラ来たぞ、デス。」
「あの女ね、香水が匂うわ。臭い」
「女は女同士でカタ付け合うのが一番デースよ、あんなババアに負けんなサクラ」
「任せなさい、行って。」
幻術で姿を消していたカレンバナが姿を現し、ナルトの目の前で真面目な顔したサクラはクナイを構える。
(待て、何故疑問に思わない。戦闘前によるアドレナリンの作用か?そうなのか?)
砂浜で見せた余裕の表情は今のカレンバナには見られない、どうやら茉莉の「ババア」発言が効いているらしくギャーギャー叫ぶ声が後方で聞こえる、しかしリーの時と同じように茉莉は振り返ることもしない。
目指すはシャバダバとイシダテ、それだけのようだ。
「ねえ‥ちょっと‥‥」
「こんな時になんだよ黙ってろヒカル、敵に見つかるだろ」
「‥茉莉があんなに大声で叫んでるのに?」
こそっとナルトに耳打ちをしたヒカルは、先を歩く茉莉を指差した。
「こぉおらあッ!出て来いシャバダバァァ!!今すぐぶっ殺してやるぁあ!!」
確かに大声で叫んでいる、しかもなんとなくどころかはっきり茉莉じゃなくなっていた。
「あれ本当に本物の茉莉なの?もしかして敵に操られてるんじゃ‥だって相手は忍なんでしょ、茉莉大丈夫なの?」
「‥さあ?」
もう知らん。
影分身の暴走など知った事かと、ナルトの意識は完全に投げやり状態に移行した。
姿形を茉莉にするだけにしておけばよかったんだろうか。
でもそれだとナルトの自我が残り過ぎて『茉莉』になり切ることが出来ない、自我を持ちながら茉莉の意味不明の発言をするなんて無理だと判断したナルトは自分なりにちょこっとだけ理解した茉莉の思考回路を影分身に組み込んだ。
コレガの時と似た『特別製』の影分身。
(完全に俺の素と茉莉が混ざっちまってる‥とも思いたくない‥)
「ナルト見て!ミチルさんがあそこにおる!!」
(「おる」って‥こりゃ影分身もそろそろ限界か)
無意識にナルトの視線は泳いでしまう、でも護衛対象の安全確認は大事だよなと茉莉の視線の先を見てみると、確かにミチルの姿があった。
首にはロープが巻かれて塔の端から飛び出した長板の上に立っている、あの体重を支える板も大したもんだと無言で頷くナルトだが、状況は良くはない。
塔は高い、あの場所へ行くには再び長い階段を上る必要があるのだがその塔の入り口にはイシダテが立っている。
最後の砦と言うところか、ミチルを救ったらシャバダバの相手はミチルにさせて、その後はどうなろうがナルトの知ったこっちゃない。
この場で国を取り戻すことが出来ないならミチルに国の王になる資格などない、とまあナルトが判断する事でもないが、亡きカケルも望んではいないだろう、多分。
イシダテを抑えてミチルを救う、そう行動に移そうとしたナルトの前を丸い頭が駆けて行った、兵士だ。
「やはりそこかイシダテ!どけぇぇええ!」
(ッくそ!)
とにかく突っ込めばいいってもんじゃない、敵の力量を読み違えて突進するだけなら誰でも出来る、これだから頭に血が上った奴は嫌いだとナルトがその兵士を止めようとした時にはすでにイシダテの手が兵士の顔に向かって伸びていた、しかしそれは宙を掴んだだけで終わったが。
その原因、というか兵士の命の恩人、救い主は茉莉だった。
正確にはナルトの影分身が変化した茉莉の姿をしたかなり暴走気味な、『茉莉』。
「邪魔だ、お前は下がってなスキンヘッド!私が相手だ、イシダテ!!」
木ノ葉にいる時の様に茉莉愛用のお玉を突き付けはしていないが、腰に手を充ててビシッとイシダテに指を向ける茉莉はどこをどう見ても茉莉じゃない。
そんな違いイシダテには判断しようがないのだが、この場で唯一茉莉に真面目に答えたのはイシダテだけだった。
「誰だお前は‥ああ、あの時騒いでいた女か」
「私の名は高鳥茉莉、お前の首を取る女だ!覚えときなこのウスラトンカチがッ!!」
(うわ、懐かしい。)
今は里にいない元7班の黒髪の忍を思い浮かべながらナルトはついに失笑した。
申し訳ないと思えるほどに笑えた、自分の作りだした影分身の暴走など今までになく茉莉のこんな姿を見る事もない。
元は自分の影分身と言えど組み込んだ『茉莉』がナルトの影分身を浸食していく、こんなのは絶対にありえない事なのに。
(やっぱこいつは面白ぇわ)
カケルが死んだ後、また茉莉が泣いた時に少しだけ考えた茉莉の世界の事。
研究すればわかるのかもしれない、茉莉の世界との行き来の仕方が、でもやっぱりダメだと再確認。
(茉莉はどこにもやらない)
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