「おい茉莉、ちょっとこっち来い」
「‥‥‥ぅえ?今大切なお話してるところなんだよ、ナルトも影分身ばっかりにお願いしないで参加しないとダメじゃん」
「いいから来いって」
「私怒ってるんだよ、だって」
「・・来いって言ってんだろ」
「ぶぅ!」
あの砂浜での戦闘から数刻、今は森に逃れてきた一行は捕らわれてしまったミチルと、なんとか助かったまだ幼いヒカルをどうすべきかと議論している最中だった。
眼に涙を浮かべるヒカルに少数の兵、意見する立場ですらない木ノ葉の忍たちはただ静かにその場の成り行きを見守っていた。
そんな中茉莉は結局ナルトに連れられて森の奥へと入って行く。
「ぶぅッ!」
だってしょうがないじゃん
「ナルト‥ナルトどこまで行くの?あんまりみんなから離れると迷子になっちゃうよ、穴に落ちて崖から滑り落ちて池ぽちゃしても知らないよ!」
「どんだけ落ちるんだお前は‥一緒にすんな」
「‥やっぱり戻らないと、カケルさんが死んじゃってコレガさんも‥ミチルさんの事助けに行くべきだよね、そうだよね!よし、行こ‥ッぐぅえ!」
「待て」
「ぐるじいぃぃぃ……」
説明するのも面倒だと言わんばかりにナルトはズルズルと茉莉を引っ張っていく。
傍から見ても茉莉からしてもひどい扱いだ、ナルトにしてみればこの護衛任務に入ってから内密に動き全く満足に眠れていない正真正銘の睡眠不足状態。
優しく茉莉に接する余裕など全くないのだからこれでもマシだと思っている。
いつも優しいかと言われれば茉莉は真っ先に否定するだろうが、とにかく首が痛い。
――ドサッ!
「っひゃ!」
「お前はこの馬車で街まで行け、んで待機。」
「えぇ!どーして!?そりゃ役に立たないけどある時突然使い物になるかもしれないじゃん!」
投げ入れられた馬車の中でがばっと勢いよく起き上がった茉莉は、閉められた扉で顔面を強打しながらも窓から顔を出して猛烈に抗議を始めた。
ガリガリと頭を掻くナルトは「うっせえなあ」とそんな態度を隠そうともしない。
「みんなに傷ついてほしくないの、会ってからちょこっとだけど二人も死んじゃった、これ以上はやだ‥」
「だからッ、そいつを街まで連れてって看病でもしてろっての!」
「そいつ‥そいつ?――コ、コレガさん!?ナルト!コレガさんがいる!コレガさんがいる!!コレガさ、むぎゅう。」
「煩い。」
ナルトに両頬を潰されて口が鳥のようになった茉莉、馬車の中には確かにコレガがいた。
石化も無し、呼吸有り、眠ってはいるが間違いなく生きていた。
「ニャルトォありがちょうぅぅ」
泣かずにはいられない、「出来る事はしてやる」と言った一言をナルトが守ってくれてることを知ったから、余計と涙が流れてく。
「なんで泣く、死んでも泣くし生きてても泣くんだな、わけわかんねえ」
「ふっぅぅぅ」
「‥‥あっちはミチルの救出に向かうらしい、俺は影分身と入れ替わるから戻る。茉莉は街だ、わかったな」
「うぅぅぅぅぅぅぅ、わがったぁ‥コレガさぁーん良かったよぉぉう、なんでどうぢて生きてるのぉあの時バリバリの石だったのに‥良かったぁぁぁわぁぁううう」
「あれは俺の影分身、イシダテの力は分かってたからそれに応じた影分身を作ってコレガに変化させた。っつっても寸前で入れ替わらせたからこいつにも少し石化の術が掛かったけど・・まあ取り敢えず生きてるし術は解いた、こんなもんなら充分だろ。」
イシダテが術をこれ見よがしに使うだろうことは予想がついてた、敵に忍がいると分かってても己の力を過信して何度もその力を振るう我欲に溺れた愚かな忍。
コレガの情報、そして実際に目にしたカケルの石化によって内臓への負荷や細胞間の石化進行速度と変化がわかった、それがあったからこそあの術を受けても消えない影分身を作り出すことが出来たのだ。
コレガの覚悟と、カケルの死があったからこそと言ってもいい。
忠義心の厚いコレガは真っ先に突っ込んで行く、そんな無鉄砲は部下には要らないとナルトなら断言する、それでも嫌いじゃない気概だった。
死者を最小に、ナルトは任務が完遂出来ればなんでも良かった今までとは違い、今回ばかりがそうもいかないと肩を落とす。
視界の端ではコレガに抱き着いてわんわんと泣く茉莉がいて、脳の片隅ではヒカル達の元に居る影分身からの報告が入る、そろそろ戻る頃合いだ。
「おい、あんまりコレガにひっつくな。」
「‥‥‥ヤキモッチ?」
涙はボタボタ流れているのに、大きく瞳を開きながら茉莉はナルトを凝視する。
答えて欲しいと言うよりは「そうだよね愛だよね」とすでに茉莉の中で答えが決まっているような状態だ、ご丁寧に疑問符を付けてはいるが可否ではなく修辞疑問文。
「‥チャンドラ、さっさと街に行け」
「かしこまりました」
「チャンドラさんいるの!?いつの間にかいなくなってたから心配してたのにナルトと一緒に行動していたとは!驚き、デス!いつからナルトとー!チャンドラさ‥‥‥‥」
ガラガラガラガラガラガラ。
「さて、俺も行くか。」
ヒカルの傍には茉莉に変化させた影分身もいる、茉莉の本体を狙ってくることもないだろうから無事街へ行くはずだ。
「頼むから問題起こしてくれるなよ」
走り去っていく馬車の中に茉莉の影が揺れるのを確認して、ナルトも闇の中に消えて行った。
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