ふわりと、金の髪が風に揺れた。

整然と並ぶ建物の屋根の上、暗がりに広がる大通りを見つめたナルトはその先を辿るように視線を伸ばす。
先にあるのは遠い森の中で光を放つ城、青い瞳の中にそれを映すと、僅かに目を細めた。










不眠不休でやってんの










「月の国‥3年ぶりか」

何も変わってないように見える。
小さな明かりが所々灯り人々の生活を浮き立たせ、陽が昇れば活気づくのだと想像出来るくらいの整った町並み。

しかし少しの違和感があるのは気のせいじゃない、ただの一人も出歩いていない夜の街からはピリピリとした一種の緊張感が場を支配していた。

「‥気付いて無いのはあのお気楽な王子様だけだってか?」

シャバダバの謀反、王が倒れればその余波は多かれ少なかれ国全土に渡る。
何事もなく王位を次期継承者に譲ったとしてもそれでも国は揺れるもの、「そろそろクーデター開始します」なんてわざわざシャバダバも宣言しないだろう、だというのに闇に流れるこの"感じ"は大いに疑問。

「ミチルが戻ってから一気に畳みかけると思ってたが読み違えた‥か」

時期国王が国の外に出ている時にクーデターを起こす奴なんていない、取り逃がしてしまえば国を奪い返される確率が高まる。
ミチルの周囲に暗殺の影は見えなかったところからしてこれは不測の事態とみていい。

急いだ方が良さそうだとナルトは狐面を顔に被せて屋根から飛んだ、その背後にあるのは広い海、上空には黒い雲が集まっている。
あと数刻も経たずに茉莉と七班、ヒカルたちの乗った船は嵐の中に突っ込んで行くのだが彼らの元には影分身を放ってある、例え敵に襲われても死ぬことはないだろうとナルトは城へと走った。

一日だけでも早かったら全てが違ったかもしれない、少なくとも現国王であるカケルが命に関わる傷を負う事はなかっただろう。
起こってしまったことに後悔はしない、そんなの茉莉に関わる事だけで十分だとも思う。

それでもこんな理不尽な事は、ナルトは嫌いだ。



「王を守れ!」

城の正門で隊長格と思われる軍人の一人が叫んだ、老人が身を預けるように乗っている一頭の馬を囲んだ少数の兵は、手に持つ剣を抱え直して『敵』に向けて一閃する。

「コレガ隊長!人数が多すぎてこれでは道が‥」

時間が経てば経つほど集まるのはコレガたちを囲む元同志の兵士たち、今は謀反側に吸収されて、つい先日まで主だった王に向けて容赦なく刃を向けている。

謀反を企んでいたシャバダバはすでに城内の大半を手中に収めていた、国王カケルと軍の隊長であるコレガが討伐を始める前に事を起こされて、今に至る。

城を捨てて逃げるしかなかった、万が一の為に国外に出していたミチルとヒカルが生きているとしても現国王はカケルで、そうでなかったとしてもコレガたちには命を懸けるに値する人物だった。

「カケル様だけでも逃がすんだ!俺が道を作る!」

今は謀反側とはいえコレガには彼らを斬るには抵抗があった、シャバダバは食えない男で彼らの家族を人質にとって兵士たちを支配下に置いている事も十分に考えられたからだ。

しかし王の命には代えられない、とコレガが後ろを向いたその時目の前に居たはずの数人の兵士たちの体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちていくのが見えた。

「行け」

掛けられた声は驚くほど透き通っていて、周囲の喧騒がコレガの中で一瞬消える。

「‥誰だ‥お前‥‥」

戦闘中であるというのにコレガが暫し呆然としたのも無理はない、そこに立っていたのは狐面を着けた男で、屈強な兵士たちをものともせずに軽く薙ぎ倒していくその姿は異様だった。

男のほっそりとした体躯からは想像も出来ない、月のように光る髪を揺らしながら戦う男は、コレガよりも随分と若いようにも思える。
狐面で顔は見えないが、垣間見える白い肌や発せられたその声からの勝手な判断で、しかしあながち間違いでもない。
なによりもその軽やかな動きはこんな時でも見惚れてしまいそうなものだった。

「王子が戻る、それまで身を隠すんだな」

「‥ミチル様が‥?」

「ここは俺が止めてやるからお前らは行け」

「‥‥わかった、頼む。奴らには特殊な力を持つ忍がいる、気を付けろ。」

「忍ね‥ご忠告どーも。」

この勢力の源はそこかと、狐面の下でナルトはハッと笑った。

随分と準備のいいことだ、そこそこで囁かれる言葉を拾うとこの事態はシャバダバに対する処置が遅すぎたのが原因らしい。
謀反側に探られていることに気付かなかったことが、カケルとコレガたちの命取り。

シャバダバは、処罰の命令が下される前に忍を使って王と王に賛同する大臣から兵士までを一斉抹殺の計画で事を進め、その決意を周囲に知らしめることで他の大臣や兵士たちの反逆を抑制。
逆らえば殺されるとなれば、生半可な気持ちでは抜けられない。

「さっさと行け、守るって決めたんだろーが」

向ってきた槍を払い兵士を一人叩き伏せたナルトは、未だにその場から動けないコレガに一言放つ。
この場に居ても足手纏いにしかならない、それにカケルは捕まればすぐに命を断たれてしまう。

「お前、名は?」

「虚空」

「すまない」とその一言を残したコレガは、部下を引き連れてナルトが作り出した道に馬を走らせた。
一瞬馬上のカケルと視線が合ったような気もするがナルトは振り返ることはしなかった、「ここは止める」と言ったのだから、優先させるのはこっちだ。

「俺も深入りするつもりはないんでね、そっちの忍が出て来る前に片づけさせてもらう」

この事態を治めるのは次期国王であるミチルでなければならない、そうでなければこの国は数年も持たずに崩壊するのは目に見えていた。

木ノ葉側としても『恩を売りたい』のだから、国の存続は必須。

それにこれは国の転機、その時に部外者が関わるべきではない。

「命だけは助けてやる、だからお前らもここらで引いとけ」

向かってくる兵士たちにナルトの声は届かない、その『忍』に対する恐怖かはたまたシャバダバへの忠義心なのかナルトには判断出来ないが、敵意を持って向かってくる奴に容赦してやるほど、ナルトは優しくはなかった。



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