――ッパシ。
「‥‥なんのつもりだよ、クソガキ。」


「みんなに差し入れデース!」ととても差し入れとは言い難い量の料理が入っていた五段の重箱を片付けている最中に飛んできた矢、ナルトは視線を向けることなく掴んで止めると、ゆらりと立ち上がった。










お子様方には甘いものを










みかづき島へ入るには船が必要で今はその準備中、交代で休憩を取っていたナルトたちだったが、明らかにナルトが一人になるのを見計らっていたように現れたヒカルの手には、子供用に作られた弓が握られていた。

もう夕暮れで周囲は波の音で満ちている、ゆっくりとナルトに近づくヒカルは静かに口を開いた。

「クソガキじゃない、ボクはお前の雇い主だぞ」

「アホか、雇い主はお前の親父でお前はただの護衛対象者。調子に乗んな」

ナルトの素っ気ない言い方に言葉を詰まらせるヒカルを尻目にさっさと片付けを済ませたナルトはその場を去ろうと歩き出すが、ヒカルは引きはしなかった。

「ねえ!」

「‥‥」

「ねえって!」

「煩い、ガキは大人しく馬車ん中にでも引っ込んでろ」

「お前って茉莉の何なの」

その言葉にナルトはぴたりと歩みを止める。
なんだこのガキ、そんな気持ちを隠さないままにヒカルに向かって手を伸ばす。

「ひ、ぅわあ!」

ヒカルにしてみればナルトがいきなり目の前に現れて自分の胸倉を掴んだのだ、夕暮れとはいえ相手の姿がはっきり見えるくらいの明るさはあるのに全くその動きを目に映す事なんて出来なかったから、ただ驚いて大きな眼鏡の奥で瞳を見開いた。

その疾さよりもなによりも、怖い。

「おい、調子に乗んなって言ったよな?」

「‥だ、って‥ッ」

「茉莉は月の国に入るまではお前に貸してやる、あれは俺のだ。」

「そ‥ッわあ!」

ドサッと音を立てて地面に落ちたヒカルは、瞳に僅かに涙を溜めながらナルトを睨み付けた。
「茉莉は物じゃない!」そう叫んだそれは、ナルトの舌打ちで掻き消える。

「何でも欲しがって全て与えてもらってただけのお前がよく他者に説教なんて出来るな。責任や覚悟の意味も知らないお前が、笑っちまう。」

「そんな事な‥」

「食後のおやつ、デース!」

「「‥‥‥」」

空気を読まない、二人の争いの中心人物かもしれない女がやってきた。
手にはまた大きな箱だ、さすが食事に手を抜かない奴だとこんな時でも唖然とする。

「サクラとリーくんとカカシせんせーにはお渡し済みなので、3人で食べまっしょ!シャキーン!」

効果音付きで茉莉が取り出したのは3本のフォーク。
箱の中から出てきたのはなんとワンホールケーキで、驚いたことに3等分に綺麗に切り分けられている。

「ここにヒカルが居るって知ってたのか」

「ううん、なんとなく3人くらいかなぁって。食べよ食べよー、別腹別腹!」

続けて箱の中から出した皿の上にでかいケーキを乗せていく、生クリームたっぷりでいかにも甘そうなそのケーキにナルトは「うげっ」と喉を鳴らして、ヒカルは目を輝かせた。

ちなみに見た目以上にカロリーは低い。
そんなことはわかってても、この状況下で仲良く3人でケーキを囲むなんて事ナルトには出来ない。

「俺はいい。こんな奴と食べてられっか」

子供じみたその言い訳に茉莉は口を尖らせた、「喧嘩ばっかりなんだからもう、それじゃ禿げちゃうからね!」と愚痴を背に受けながら再び飛んできた矢をナルトは後ろ手で掴む。

威力はヒカルのものよりは低い、それでもまっすぐ飛ばすことが出来るんだななんて緩く考えてしまうのは、矢を放ったのが茉莉だったからに他ならない。

もう一度ヒカルが放っていれば、矢がヒカルの指から離れた瞬間にでもすぐ下に広がる海へとヒカルの体は飛ばされていただろう。

勿論、ナルトによって。
王子だからなんだ、関係ねえよと言い放ち助けもしない。

「今度は茉莉か、二人揃って俺に向って矢を撃つな鬱陶しい。」

「んふふふふ、ヒカルに教えてもらったんだけどなかなかでしょ!ずっと特訓してたんだからこれで私もナルトの役に立つかもね!大活躍しちゃうかもね!」

「吸盤の矢でどこまで敵を倒せるか見ててやるよ、馬鹿茉莉。」

「ぶーーーー、‥‥ブゥワッ!」

再び口を尖らせた茉莉にパスン!と小気味のいい音を立てて吸盤付きの矢が茉莉の額にくっついた。

指で挟んで放っただけのナルトの矢はそうとは思えないほどに威力が高い、バランスを崩した茉莉はそのまま後ろに倒れ込み、あーだこーだと唸っている。

「日が落ちる前に馬車に戻れ、カカシたちのとこにでも行ってろ。」

「えー、ナルトはどこ行くの。一緒に行こうよ食べようよ!!」

「すぐ戻る。」

そして姿が消える、暗く広い海に溶け込むようだった。
ナルトが居たはずのそこには周囲と変わらない夕暮れの光が差しているだけで、その光を受けていたはずの金の髪を持つ姿は初めから居なかったかのように、二人の前にはすでにない。

「‥‥あとで持って行ってあげよ、ケーキ。」

ぽつんと呟く声なんてもうナルトに届いてないだろうけど、わかっていても声に出さずにはいられない。
甘えっ子ちゃんなんだからナルトってばもーう、と茉莉はそんなに深くは考えてないんだが。

「‥‥茉莉」

「なあに?ヒカル」

「あいつはさ、茉莉の何?」

「んん?んふ、んふふふふふふふふふふふ!それを語るには長い長い長ぁーい時間が必要ですなあ!なにせメガネに攫われ蛇に襲われる中でのライクがラブだったんで!!」
 
「‥‥‥‥」

ヒカルの脳内で今までにない大きさの疑問符が出現した。

夕暮れから夜へ、取り敢えず船に乗り込むまで茉莉の話は続いたが、ヒカルが理解出来たのは多くはなかった。




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