「暑ぃー‥‥」

暑い日差しが降り注ぐ砂漠で、4人並んで歩くナルトの口から出るこの言葉は何度目か。
呟くたびに隣を歩くサクラに軽く怒鳴られ、反対を歩くリーには応援されてカカシだけが涼しい顔で歩いている。

(別に暑くはねえんだけど、ひたすら歩き続けるメリットが‥‥‥ない。)

木ノ葉を出て数日、護衛任務を請け負ってその対象との待ち合わせ場所までひたすら歩いているのだが、修行にもならないただの時間の浪費としか思えないこの状況は嫌気がさすほど長い。

(茉莉は大人しくしてっかな)

家を出る時お玉を握りしめながら号泣する茉莉のあの顔は笑えたが、今頃何か事件でも起こしてるかもしれない。かと言って連れてくるわけにはいかないしな、と顔を上げたナルトは視線の先にいた人物を見てひくりと口を引き攣らせた。

「‥‥なんでお前がここにいる」

にこにこと笑うその顔は喜びを抑えきれないようで、うだるようなこの暑さを若干緩める、しかしナルトだけは違う。
この場に七班が居る事も気にせずに、冷めた声を堂々と地に落とした。

ナルトたち4人の後ろでは護衛対象の荷物をぎっしりと積んだ荷車が列を崩す事無く並んでいる、そして正面には任務の依頼主でもある護衛対象の月の国の王子とその息子、あともう一人の女にナルトは怒りを覚えずにはいられない。

「えへへん、びっくり仰天大成功!綱手様からお話貰って来ちゃったデース!」

バンザーイ!と両手を空に掲げた茉莉はナルトから飛んできた拳を受け、高くあげた手でそのまま頭を抱えて座り込むことになった。

「い、ッたぁぁああいぃぃ!!!ナルトのバカ!」

「帰れ!!バカ茉莉!!」

「嫌!」

「帰れ!」

「嫌!」

「帰れッッつーの!!!」

「いーやーだーっ!!」


お互いの主張だけが続く横では、自己紹介を済ませた面々が各自の持ち場と馬車へと戻って行く。

向かうのはみかづき島にある月の国、諸国漫遊の旅を終えて帰国する王子ツキミチルと、その息子ツキヒカルを護衛するのが今回第七班へと与えられた任務である。










護衛任務とあの子のお仕事










トントントン、ラララン。

包丁がまな板に当たる音と茉莉の鼻歌が響くここは連なる馬車の中の一つ、充実したキッチン完備の馬車である。
火と水もどこから供給されているのかと茉莉が疑問に思う事はない、だって料理出来るならOKですから。

「おい、話終わってねぇんだけど」

ザク、と野菜を切った茉莉は、外の高い気温なんてものともしないその冷たい声色を発した主へと視線を向ける。
どうやらまだ怒りは冷めてはいないようだ、わかってたけど根に持つタイプだなと茉莉は口を尖らせた。

「これは私の『任務』だもん、ナルトはナルトの任務があるでしょ、護衛任務がんばってやりまっしょい!」

「何が任務だ、忍でも無いくせに」

「そうだけどさ、お料理作って下さいってお話があったから来たんだもん」

「そんな事綱手から聞いてない。だいたい俺が家出る時お前は家にいただろ、なんで俺より三日も早くあいつらに合流出来たんだ」

「うっふっふ。楽しかったデース!ナルトのあの速―い術より全っ然良いでしたよ、『根』って言う暗部の人がサササーっと絵を描いたらそれが鳥になってビューンって!!」

「‥‥その礼に何しろって?」

「根のみんなにもお弁当、ダンゾウさんは糖分控えめの高蛋白低カロリーで。なんか最近糖尿病が気になるって」

「ああ、そんな感じ‥っておいおい。とにかくお前は帰れ、忍鳥飛ばして迎えに来させるから、シカマルを。」

「嫌。」

(あ、またナルトの口が引き攣ったー。最近ストレス多いんだかわいそうに、いつも怒ってばっかりだけどそろそろ対処しなくては!カルシウムカルシウム。‥ん?)

ナルトが寄り掛かる壁の窓からは岩壁が見える、なにやらその斜面を砂煙をあげながら落ちていくものが視界に映って茉莉は眉を潜めた。

機嫌が悪いらしいナルトそっちのけだがどうやら盗賊らしい、ミチルが旅の間に買い求めた品々や金銭を狙っている彼らは、茉莉がこの一行に加わってから三日の間に何度か見掛けた。しかしついに年貢の納め時のようだ。

時折馬車の通る道無き道を越えて飛ばされ、砂漠に埋まる盗賊もいる。
ナルトの影分身は本体以上に怒り狂っているようで、容赦なく屈強な盗賊たちを蹴り倒し薙ぎ倒しては茉莉のいる馬車へと視線を向けた。

「茉莉、聞いてんのか」

「ぶー、これは私のお仕事なの、ちゃんとお金貰ってるんだから。それに木ノ葉って今財政難でしょ、月の国ってお金持ちだからすごくいい報酬なんだって。余所者なのにずっとお世話になってるし出来る事はやりたいし、それにナルトの傍にいられるしギャンブルは興味ないけど南国のお野菜とか果物とか興味あるしなんとなく腐女子系のお店も充実してそうだしみんなにお土産いっぱい買えそう、だっていつも貰ってばっかりだから、たまには」

「途中途中でまともな事は聞こえたが後半部分はわからん、でも帰れ。」

「ヤ、どうしてそんなに帰らせたいのステキな国なのに。ミチルさんは少しカロリー控えめの料理お勧めだけど。」

「茉莉に話す事じゃない、とにかく帰れ。」

嫌!ともう一度言おうと思った茉莉だが、振り向いた時にはナルトの姿はなかった。

「あれえ?珍しく強制ではない‥‥デスカ?」

おかしい、いつもなら有無を言わさず力任せに放り出されるのに。
でも傷つけられることはない、声が出ないくらい痛かったりするだけで、大量出血もないし瀕死もない。

(そんなところに愛を感じたりウヘヘヘヘ、ヒッヒッヒッ)

――ガチャッ。
「およ?」

扉が開いて視線を向ける。
ナルトじゃなかった、ここ3日間良くしてくれるチャンドラさん。

「茉莉さん、ヒカル様がお呼びです。ゲームの攻略が‥」

「待ぁってましたあ!攻略お任せぇい!!」

スパァン!とナルトの事など頭から消し飛んだ茉莉は、驚くほどの速さで料理途中の野菜を保存して馬車から飛び出した。

茉莉がミチルとヒカルに会ったのは三日前、その瞬間に二人の食事のカロリー計算をした茉莉なのだが、それと同じくらいヒカルの暗い表情が気になった。

話しかけても「別に」とか「ふーん」でかわされ会話にならない。
そんなのナルトで慣れっこな茉莉は特に気にせず話し続けて二日目には一緒に料理をするようになった、聞けば母親がずっと傍に居ないらしい。

なんだ寂しかったんだねー、なんて言えば顔を真っ赤にしたヒカルがかわいかった。
弟が居たらもしかしてこんな感じかもしれない。

ちょっとひねくれてて、でも照れ屋で、感情を素直に出せないそんな子。

「せめて人との繋がりをもちっと作ってから‥‥」

「何?茉莉」

「なんでもないデース!んじゃ、ついに見せちゃうよ!裏ワザスーパー攻略術ぅッ!エイヤッ!」

まだこんなに小さいんだからそりゃママが恋しい、生きてるらしいし。
だから私、帰らないよ。

ナルトごめんね。
心配してくれてるのわかってるんだけどさ、ナルトも一人の辛さ知ってるじゃん。
誰かが傍に居てくれて嬉しいって、私もよく知ってるし。

――ポチポチポチポチポチッ!!!!!
「茉莉‥速すぎてわかんない‥‥」

「これが出来なければ勝利はない!!でもごめん!」

謝りながらも指の連打は止まらない茉莉はどう見ても大人気ない行動に身を浸している。
二人の乗る馬車の外では影分身と入れ替わったナルトがまた一人盗賊を倒したところだった。

「月の国はやべえんだっつの、バカ茉莉‥‥」

綱手の奴も知ってる癖に、なんで茉莉を来させたのか。
これじゃ忍鳥を飛ばしても意味がない、綱手に揉み消されるのがオチだろう。
茉莉は帰るつもりが全くないようで遊んでるし。

「くそったれ」

無表情で呟いたナルトは取り敢えず襲い掛かってきた盗賊に視線を向けることなく裏拳を飛ばした。

謀反の企みが着々と進行中の月の国、何が悲しくて茉莉を連れて行かなくちゃならないんだと速度を変えることなく走る馬車から意識を離さずに、ついつい岩壁を殴り崩した。



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