「‥‥俺になんか恨みでもあんのか?」

「へ‥‥へ?」


何故に!?

はち切れんばかりの愛を込めて作った三段のチョコレートケーキ。
両手に持ったまま体を固まらせた茉莉の目の前でケーキの飾りである砂糖菓子の人形が倒れた。


ぺちゃ、っと。










バレンタインはこんな日だろ










「シカマルゥー!!」

「あー‥うっせ‥‥‥‥」

「ひどい!!」


朝からバタバタ。
少しくらい静かに出来ないのかと叫んだことは何度もあったが諦めるのも早かった。
“煩い”と認識することくらいは許してほしい。
どうせ口に出したってサラっと忘れるんだ茉莉の奴は。


「今日バレンタインなのシカマル知ってるでしょバレンタインなの!まさかあんなに激戦だとは思わなくてでもナルトの為に一生懸命並んで飛んでくるクナイを避けてくの一達の拳と蹴りも退けて買ったチョコレートで作ったケーキだったのに‥なのになのになのに!!ナルトが俺に恨みでもあるのかって!殺す気か!!って言うの!!そりゃ恨み言の一つや二つやあるなんてこと言えないけどもだって朝から襲われるんだもんご飯作れないんだもんでもそんな事今日この日に言わなくてもいいのにバレンタインなのにひどいデース!!うぅぅぅうわぁぁぁぁん!!」

「今日の炊き込みご飯おいしいな」

「ほんと?きのこたっぷり入れたからダシが出てよかったのかも、えへ。おかわり?」


シカマルなりの茉莉回避術は茉莉がこだわることをネタに釣る事。
こだわり=食事。
これであと10分くらいは静かだな、と思ったのも束の間、
目玉焼きを見てまた茉莉が捲くし立てて号泣する羽目になった、最悪。


「愛の日だから目玉焼きをハート型にしたのにぃ‥炊き込みご飯の人参も全部全部ハートにしてサラダのきゅうりもスープのお野菜にもいっぱいいっぱい愛を込めたのにぃぃ‥!は!?もしかしていつもこの愛のお料理がよかったのに今日だけって言うのが駄目だったのかな?で、でもいつも愛いっぱいだもん!それにナルトはまだお食事見てないし、ひどぉぉぉぉい!ナルトの馬鹿!シカマルの馬鹿!あ、これおかわりのごはんね、どーぞ。‥うううううう!」


茉莉の作る食事は美味い。これは否定しない。
“イベントは大事デース”と言ってただけあって落ち込み度も相当らしい。
食事ネタでうまく釣れないのは数えるほどしかなかったってのに‥めんど。
ふわ、と湯気を上らせる炊き込みご飯を口に入れればやはり美味い。
この味が無ければこの家にも来ないかな‥‥、うるせーし、めんどーだし‥


「どうしようシカマル、ナルトに‥嫌われちゃったぁ‥‥」

「‥‥‥、んな事ねーって。ったくもー」


たとえ料理が美味くなくてもこれ以上に煩くても茉莉の事は捨てれない。
ぽんぽん、と茉莉の頭を軽くたたけばポタポタと涙が床に落ちた。
素直すぎるのかなんなのか、ったく。めんどくせー女‥‥


バン!!

「うわ!」

「うわぁ!!ナルト!?‥‥ごごご、ごはんちゃんと残ってるよぉ!?」


突然ドアが開いてそこに立ってたのはナルト。
やたらデカくて白い袋を肩に担いで‥‥、サンタかっつーの。


「飯は後、なにせ今日はバレンタインだろ。さっさと行かねーと。」

「ちょぉぉおっと待ったぁ!!」

じゃあなー、と出て行こうとするナルトの襟を後ろから掴んで茉莉が引きとめた。
俺がやればナルトが振り返った瞬間蹴り飛ばされるか吹っ飛ばされるかどっちかだろうけど相手は茉莉。
何かやられるってことは少ない。


「っんだよ茉莉、」

「私からのチョコは受け取らないで他の子からのチョコを貰う為にこの愛の巣から出ていくなんてぜぇっったいに!許さないデース!!」


ふん!といつになく強気な茉莉。
さっき泣いたせいかそれとも今怒っているからかとにかく顔は真っ赤だ。
本人は気にしちゃいないだろうが。


「なんでお前からチョコを貰わなくちゃいけないんだ、だいたい今日俺にチョコを渡すってこと自体許容しがたいっつーの!」

「んなぁ!!ななな何を言ってるのぉぉ!愛の日の今日だからこそチョコを渡すの!例えお菓子メーカーさんの策略だろうがなんだろうが今日は愛する人にチョコを贈るのデス!ナルトにいっぱいの愛を注ぐために義理チョコすら作らず配らずだったのに!でもシカマルにはやっぱり何かあげたくてスープの隠し味にチョコ使ったりしたけどでもそれだけだもん!ナルトにはおっきなおっきな愛がたっぷりのケーキ!」


隠し味。あ、だからこれコクがあるのか。
ふんふん、と一人頷くシカマルは次のナルトの言葉で口に入れたスープをふき出した。


「何が愛の日だ!今日は狙う相手を堂々と毒殺出来る一年に一度しかない貴重な日だぞ!」

お前知らなかったのか馬鹿か!と真面目な顔で言い切った。

「くぁ‥‥」

さすがの茉莉も言葉がないようだ、やるなナルト‥なんて事思えないほどにシカマルは咳き込んで言葉なんて出せる状態ではなく。
カラーン、と茉莉が持っていた愛用お玉が床に落ちて乾いた音を立てた。
そんな事気にもせずにナルトは言葉を続ける、いつも以上に‥機嫌がいい。

「まあさすがに殺したのがバレると後が面倒だから数時間の間だけ腹痛下痢嘔吐意識混濁眩暈頭痛が続くだけで死にゃしない。毎年死人は出ないしな。なぜかこの日は警戒もなく食べる、忍なら注意しろって思うがまあ一年に一度くらい憂さ晴らししたい奴も多いだろうし。待機所に人が来る前に置いとかねーとこれ。」

大きな袋を抱え直すとガサ、と音がした。
推測するにその腹痛下痢意識混濁云々の毒入りチョコレートがギッシリ詰まっているとみて間違いない。


「あ、そのケーキサスケに渡しとけ。あいつ2.3日任務無いからちょうどいいんじゃないか?」

「‥‥‥‥サ、サスケ?」

「貴重な写輪眼だろーが生きてりゃいいだろ、茉莉からならあいつ絶対に食べるし。じゃあなー」


パタン。




「‥‥‥‥‥‥。」

「‥‥‥俺に聞くな。」


そういや毎年バレンタインは病院が混雑するってサクラが言ってたな‥‥


「‥‥‥‥‥‥しかまるぅ‥」

「‥‥‥‥‥‥‥」

「っわぁぁぁぁああぁあぁん!!」


さすがに泣きたくなる気持ちは分かる。


帰ってきたナルトの顔は妙に晴れ晴れとしていて、「バレンタインって最高だな」の言葉にまた茉莉が泣いた。














おしまい


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