なんか重―い空気を頂いたけど……
ナルトだと名乗った少年の後を着いていくとトンネルから出たら雪景色〜以上に驚いた。
ボロボロのアパートの戸を開けたらありえない広さのリビング。
だって外から見たら隣の扉すぐそこなのに、中の部屋の壁がかなり遠いっておかしいっしょ!
わお!と声を上げようとしたら床に押し倒された。
両手を床に押し付けられ膝を割られて…動けない。
この状況……最っ高―?だよねだよね?
ここどこでしょうか?
ドサ…
家に着いてすぐ茉莉を調べようと取り敢えず押し倒したのは、道中懲りずにペラペラ話す茉莉に聞いたって無駄だと早々に悟ったからだ。
こいつ相手なら実力行使が最も早いのだと、ナルトは茉莉と出会ってから数分で掴んだ。
ナルトは押さえつけた両手から微量のチャクラを茉莉に流す――が、何も読み取れない。
おかしい…チャクラの回復は間違いなく茉莉と関わったから起きたことだ。
(こいつには一般人レベルかそれ以下のチャクラしかない。って事はなんだ、他者のチャクラを回復若しくは増大させる引き金が――)
ナルトが生まれてからこれまで生きてきた年数は長いと言うには短すぎるものだ。
しかし誰よりも潜ってきた修羅場は多く、戦闘能力その他諸々は他の忍と比べるまでもなく圧倒的に高い。そこから導き出されるのものはなんだろうか、思考を巡らせるナルトは変わらずに両手から流れてくる茉莉の情報を分析する。
一方突然押し倒されて驚いたのか、ペラペラとよく動く口を閉ざし黙って黒い大きな瞳を見開いていた茉莉だが、何を思ったのかゆっくり瞼を閉じた。
―――あぁ…そういうことか。
茉莉の容姿は、黙ってれば中の上くらいには見える。黙っていれば、だが。
栗色の髪は緩やかにウェーブがかっており床にふわりと散っている、長い睫毛は髪色よりはやや濃いが、それがまた瞳を大きく見せるのに役立っているんだろう。
りんごが好きだと言っていただけに、柔らかな頬は紅に染まっている、そしてその小さな顔に配置良く置かれている色づいた唇に噛み付くように、ナルトは自分の唇を重ねた。
「ふぁ……っ…」
薄く開いた唇からねじ込む様に舌を入れると茉莉の体が小さく震、程なくして唇を離すと繋がっていた銀の糸がプツリと切れ……ナルトは確信した。
―――こいつ…口と口の接触でチャクラの回復を促すのか。
へえ、面白い。と軽く笑うナルトに対し、微かに呼吸を早めた茉莉は「ふわぁ」と小さな声で呟いた。
「神様ありがとー…も、連れてってー。続きも捨てがたいけど体と心が爆発しそうでもう持たないー、妄想万歳でしたー、死に際の願いを叶えてくれてありがとぉ感謝デース。アーメンラーメン。」
バチンッ!!
「い…いったい!!痛い!なんで叩く…愛のムチ?え!そういうプレイ!?」
初めて会った時からなんとなくSっぽいとは思ったけど体を傷つけられながら事に及ぶのは勘弁願いたい!と、茉莉は心の中で大袈裟なくらいに叫んだ。
素敵キスだったのに!折角の素敵キスだったのにぃ!しかも初めてだったのにぃ!!でもこの痛みもちょっと快感…なんて思っちゃう私は隠れMだったのか!?と、少し路線の外れたことを考えもしたのだが、目の前にいる金髪の当人は茉莉のパニック等お構いなしに「はッ」と機嫌悪そうに嗤った。
「お前、じじいの部屋にいる時から死に行く私とか死ぬ間際とかほざいてたが、到底死にそうにないな。」
「へ?だって私…もうすぐ死ぬか…もう死んだかだし…」
バチンッ!!
「いひゃい!」
「死んだ人間が痛みを感じるのか?」
「へあ?いやそれはわからな‥」
バチンッ!!
「うひゃッ!!い、痛いー!」
「もう一度やってやろうか」
「わわわ、わかった!わかったからちょっと、ちょっと待った!」
思い立ったらすぐ行動らしいこの男。
すっごくかっこいいのに…似合う!いやいやかっこいいから似合うのか!?
でも待て待て…あれ?
ちょっと待って、の言葉などどこかに消えたのか、またも手を上げるナルトに茉莉は無言で目を向ける。
軽く眉を寄せるナルトを見て「あ、絶対もう一回叩く気だな」と頭の片隅で考えつつも、それは霧の様に消えて行った。だってそれよりも大切な事を思い出してしまったから。
「私…学校の帰り道歩いてて…襲われて、刺されて……気付いたら…落ちてた……え?」
もしやトリップ!!と連想するのは腐女子にどっぷり浸かった女子ゆえか。
落ちていくのも、キスも、この家もこの状況も死に際の夢かと思ってた茉莉だが、まさかのトリップ!?
「あ!」
刺された胸はどうなった?
そう思って上着をガバッと捲って左胸の上辺りをさすってみた。ボコボコと触れる皮膚に触れ、ケロイドみたいになってるそこは間違いなくあの時刺された部分に違いない。
「生きてトリップじゃなくて、死んでトリップかぁ」
……そっ…かぁ………
突然黙ってしまった茉莉をナルトは静かに見つめていた。
急に上着を捲ったと思ったら下着も腹も丸見えだというのに今度はボーっとしている、これは本当に女か?
一般人でも身に着けていると思われる一定の羞恥心や警戒心ってもんがどうやらこの女には無いようだ。
自分は死んだと思っているらしい茉莉だが、普通に考えれば立派にキチガイの仲間入りだ。
無防備な今の茉莉なら子供でも簡単に殺せるだろうなと、茉莉の白い肌に残る傷跡を見ながらナルトは手を伸ばした。
prev / next
→ TOPへ