―‥


――ザァァァァァ‥







『‥雨‥か‥‥‥』


 
静かに始まった音に織り込むように、咲喜はゆっくりと外に視線を向けた。











黒蝶  雨一夜











「どうした?」


ぽつりと呟いた一言に、頭上から疑問の声が投げられた。

いつもそう、この男は言葉を拾い落とすことが無い。
それとも、疑問に思うほどに言葉に籠もってしまったのだろうかと咲喜は瞳を細めた。


『‥小夜時雨だ』

褥から見える外はもう暗い。

開け放たれた戸が、空間を切り取ったかのようにその情景を二人に映し出していた。

「寒いか?」

やはり男だからか、枕にしている膝が硬いなとぬらりひょんの言葉を聞きながら咲喜は思った。

それでも居心地のいいその場所から動くことはせず、ゆっくりと瞳を閉じて、開く。

頭に添えられる手が温かい…

ぬらりひょんの手は咲喜の耳の裏辺りから肩まで滑り、また戻り、繰り返す。

徐々に虚ろになる咲喜の意識を僅かながらにはっきりさせたのは、しとしとと降る雨だった。

寒くはないと、応えるように咲喜は軽く頭を振った。
膝に乗っているため大きくは動かないが、ぬらりひょんにちゃんと伝わったようだった。

「そうか、」

そして一瞬止まった手の流れが再び戻る。

時々髪を梳きながら動かすためか、褥に散る咲喜の長い髪が引かれ、何も纏っていない体を滑っては落ちていくのを感じた。






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