穏やかな日の光が都を照らす。
少しずつ顔を出す太陽から目を背けることなく、
その光に包まれるようにただじっと、凝然と立つ。
一つの気配を感じるその時まで。
『出て来い。話があるんだろう?名は蓮水‥だったか』
機でも窺っていたのか、掛けられた声に動じることなく姿を現したのは先日目にしたばかりの妖の女。
“三日後、また会いに来てもいい?”
前に立つ彼女の主、人魚族の姫から告げられた約束の日、
強い決意を瞳に宿した女妖を前に静かに笑った。
ある意味それは廉直で、
ザザ、と木の葉を揺らして森に入る。
まだ朝も早く、鬱蒼とした木立のおかげか外気が冷たい。
木の枝から降り立って大きく呼吸をすればひんやりとした新鮮な空気が肺を満たした。
『ここからは歩いて行くか。』
三日前出会った場所はそう遠くない。
耳を澄ませば小川のせせらぎが聞こえる。静かで、自然の音しかしないその場所は最近見つけた気に入りの場所だった。
まさか川の中から何かが飛び出してくるとは思いもしなかったが、
その出会いも衝撃的ならその人物たる性格も大層なものだった。
一歩二歩、歩いて立ち止まる。
朝っぱらから‥、人権を尊重すると言う言葉をこいつは知らないんだろうか。
それとも人でもない”黒蝶”たる私にそんなものは無いとでも言いたいのか。
『‥‥蓮水との話を聞いてたんだろ、私の答えは変わらない。‥着いて来るな。』
木に背を預けて腕を組んでいるぬらりひょんを睨む。
毎日毎日煩いがここ三日間はやたらと静か。
しかし絶えず傍に居るその気配が癇に障る。
「本当にいいのか?」
『何が、』
「その答えじゃ」
いつもの飄々とした態度はなく、いつに無く真摯な面持ちで「後悔はしないのか」と。
『‥お前は不服そうだな、仙狸は喜んでたが。何を言われようと私が決めたことだ、お前にとやかく言われたくない。いらん差し出口をきいてないでさっさと消えろ。』
「‥仙狸は?」
『お前の頭の上、』
「は?っうわ!!」
「やはり阿呆か妖。咲喜の邪魔をするな、」
「何を!!こら、さっさと人の上から退かんか!!」
枝から爪を立てたままぬらりひょんの頭へと降りた仙狸。
顔を合わせればギャーギャーと、やはり煩いことこの上ない。
『そのままふたりでふざけてろ。』
ふん、と目的地である河原へと向かう。
本当にいいのか、だと?
当たり前だ。
三日間などと言う時間は必要なかった、答えはすぐに出たのだから。
“友”になるなど、ごめんだ。
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