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ついにこの日がやって来た。

◯◯さんと恋人同士になってから早数ヶ月。
俺は風呂から上がるとドキドキしながら自室の障子の前に辿り着いた。

ごくりと喉を鳴らすと、覚悟を決めてスパンと障子を開けてみた、が。


「あ、間切さん……」


薄暗い部屋の布団の上。寝巻きである◯◯さんの色っぽさに軽く目眩を覚えた。顔が沸騰しそうなくらい熱くなる。

…だめだ!緊張しているのがバレる!

なんとか平静を装おうとしたが。


「し、失礼します…!」

「え?あの、ここ間切さんの部屋ですけど……」

「へ!?そそそうでしたね…!」


今まで縁が無さすぎた空間に一瞬自室とは思えなかった。やばい、絶対変に思われた。

なるべく、なるべく普通に…歩むと俺は◯◯さんの隣に腰を下ろした。


「今日はありがとうございます。無理言っちゃって…」

「い、いえ。その……お誘い嬉しかったです」

「!、そ、そうですか……」

「はい…」

「…………」

「…………」

「……っ…」


この後どうしたらいいんだ?網問…!

必死に教えられた事を思い返す俺。そうだ、◯◯さんの緊張を解さねば。

男の俺がしっかりしないと…!


「あ、暑くないですか!?なんか…」

「え?そうですね…間切さんさっき上がったばかりですし、大丈夫ですか…?」

「お、俺は平気です…!」


あれ、逆に心配されてないか?気を使わせたぞ…!

会話が下手すぎる自分に自己嫌悪をしていたら◯◯さんの動く気配を感じた。


「間切さん、凄い汗…」

「!?」


首元に当てがわれた手拭いの感触にくすぐったくなった。
◯◯さんの手の温もりが伝わってきて変な気持ちになる。

余計に汗が……心臓も早鐘を打つ。


「あの、間切さん本当に大丈夫ですか…?涼みに行った方が…」

「だ、大丈夫です…!このくらい平…っ」


平気、とまた言おうとしたが、急な吐き気に襲われ俺は口を塞いだ。
もちろん熱のせいではなく、いつもの陸酔いだ。

嘘だろ、このタイミングで…!?


「うぇ……ぷ……っ!」

「わー間切さん!?薬持って来ますね…!」


瞬時に陸酔いだと判断した◯◯さんは慌てて部屋を出て行った。俺はあまりの気持ち悪さに倒れ込む。

次に自分の不甲斐なさで少し涙ぐんだ。カッコ悪い俺……。

帰ってきた◯◯さんから酔い止めの薬を貰い飲むと、大人しく横たわった。


「具合はどうですか?」

「だいぶマシに……ありがとうございます」

「良かったぁ」


◯◯さんはふわりと笑うと俺の頭を撫でてくれる。
その優しさに胸が痛いぐらいに締め付けられた。

体調が悪いと心まで弱くなるのか、俺はつい弱音を吐いてしまった。


「その、本当にすみません。色々と…」

「そんな…謝らないでください。それに陸酔いは立派な海の漢の証ですし」

「それだけじゃなくて……お、俺、……初めてなんです」

「え?」

「その…じょ、女性とこんな事…っ!情けないですよね、経験あったら◯◯さんに不安な思いさせなかったのに…」


とうとう告白してしまった。後戻りできない。
◯◯さんはこんな俺に失望してしまっただろうか。覚悟しないと…。

だけど◯◯さんの返事は、俺の予想外の言葉だった。


「間切さん……私が初めてなんですか?」

「は、はい…」

「…嬉しいです」

「え?」

「だって、そうじゃないですか…?好きな人の初めてになれるなんて……こんなに嬉しい事ありません」


恥ずかしそうに頬を染めて伝えてくれた◯◯さんが可愛すぎて俺も真っ赤になる。
嬉しすぎてどうにかなりそうだった。そんな風に想ってくれるなんて…。


「それに……わ、私も間切さんが初めてですし…」

「そ、そうなんですか…!?」

「はい。…間切さんは嫌ですか?こんな私…」

「そんな訳ないじゃないですか…!むしろ嬉し…っ」


そこまで言うとハッと気がついた。
そうだ。◯◯さんも俺と同じ気持ちなんだ。なんでそんな簡単な事に気づかなかったんだ。
一瞬とはいえ◯◯さんの気持ちを疑ってしまった自分が恥ずかしい。

…もう、何も怖くないぞ。

俺は◯◯さんと布団の上で向き合うと、彼女の小さな手を取った。


「その……い、痛かったりしたらすぐ教えてください…っ。わからないので……」

「はい…」

「あと、……またもし陸酔いしたらすみません」

「私、そのくらいで間切さんのこと嫌いになったりしません……」

「!、◯◯さん……あ、愛してます…っ」

「…私も、愛してます……」


見つめ合うと◯◯さんの唇に俺のをゆっくり重ねる。

だんだん息が乱れていく◯◯さんに興奮していき、寝巻きの間に掌を這わしていく。


色々あったけど…。


二人の夜は、これからだ。



20/10/14


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