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「い゛やあああああああああー!!」



今の叫び声は私ではない。

真夏の深夜。水軍館の自室で眠っていたら、突然響いた疾風さんの大声に目が覚めてしまった。

廊下の方からバタバタと足音が聞こえ、私は眉を顰めながら寝返りを打って再び寝ようとする。



「あ!…航!!」

「げぇっ!?最悪なタイミングで疾風の兄貴に出会ったんだけどー!?」

「げぇっ!?とはなんだ!おおおお俺を厠まで連れて行けぇぇー!幽霊がぁー!」

「だから猫か草木か木材の音ですって!」



今日は航さんが捕まってしまった。

いつもだったら他の水軍さんに任せるのだけど、よりにもよって私の部屋の前で騒いでいるものだから、これじゃあ寝ようにも眠れない。

はぁとため息をつくと、私は眠い目を擦りながら、布団から起き上がると障子を開けた。



「何が悲しくておっさんの厠に付き合わなきゃいけないんですか!」

「は、薄情もんがっ!お前がガキの頃、俺がどれだけ厠に付いていってやったことか…っ」

「いや子供の頃から俺が兄貴に付いていったんですが!?」

「……あの、航さん、疾風さん」



遠慮がちに静かに話しかけると、先に航さんが目を見開いて驚いた。



「◯◯ちゃん!ご、ごめんね、起こしちゃった…?」

「はい。というより、疾風さんが叫んだ瞬間に………あれ?」



本人の姿が見えなく、きょろきょろと辺りを見回す。
すると近くの茂みの方からガサガサと音が聞こえ、航さんとそちらに目をやると、青ざめた疾風さんの頭が飛び出した。



「…………何やってるんですか疾風の兄貴」

「び、吃驚した。◯◯かよ……っ」



どうやら私を幽霊か何かと勘違いしてしまったらしい。

疾風さんが幽霊が苦手なのは元より知っているので、怒ったりはしないけど、何とも言えない気分だ。

私の次に今度は航さんがため息をつくと真顔になった。



「兄貴、他の奴らもそうですけど、◯◯ちゃんにも迷惑がかかるじゃないですか。いい加減、せめて叫ばないように怖がってください…」

「ふ、ふんだ!俺の近くで、紛らわしい事を起こすやつが悪い!」

「開き直るな!!あんた本当に手引き!?」



二人の漫才みたいなやりとりを呆然と眺めるしかない私。

先に仕事で疲れているだろう航さんを部屋に帰して、私が疾風さんに付き添う予定だったんだけどな……どうしたらいいんだろう。

というかさっきから時間が経ってるけど、厠は大丈夫なのかな疾風さん。



「うっ、やべえ…!」



思った通り限界だったみたいで、疾風さんは私と航さんの間を走り抜けると姿が見えなくなってしまった。

一人で行けるじゃないですか、と思ったら…。



「蜉蝣おおおおー!!」



…さんを、起こしに行ったみたいで。



「……おやすみなさい、航さん」

「うん、おやすみ◯◯ちゃん…」



二人して何事もなかったかのように、私は航さんに挨拶をして障子を閉めると布団に潜り込んだ。

あと数時間しか眠れなくなったけど、明日の水軍さん達の朝食はああしてこうして…。

とりあえず、遠くの方で聞こえる騒がしい声には、意識を集中しない事にした。



22/09/28


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