sample | ナノ
「ねぇ重さん、赤ちゃんってどこから来るんですか?」
◯◯の突然過ぎる言葉に、口に含んでいたお茶を盛大に噴き出した。
「ぶっふおおおー!!え、何、なに突然!?」
「ですから、赤ちゃんってどこから来るんですか?」
「………えっと」
一体何処から突っ込めばいいんだ。
いやそういう意味じゃなくて。
◯◯は幼い頃、漁師だった両親を亡くし、ここ兵庫水軍に辿り着いた。
俺にとっては妹みたいな存在で、そんでもって、
…実は俺の好きな女の子だったりする。
そんな好きな女の子の口から出た、とんでもない質問。
「前から思ってたんです。赤ちゃんって可愛いじゃないですか。でも、そういえば何処から来るんだろうって……お母さんのお腹の前は何処にいるんでしょうか?」
◯◯の目は至って純粋そのものだった。
俺は◯◯との過去を振り返ってみる。
兵庫水軍は男だらけで、たった一人の女の子というのもあって、大切に育てられてきた◯◯。
そっちの知識があってももうおかしくない歳なのだが。
お頭や兄貴達に、何も教えてもらわなかったのか……。
というか、教えられなかったのだろう。
俺だって現にそうだ。どうしたらいいんだよこれ。
俺が考え抜いた結果は、
「…お、俺もわかんないなぁッ」
目を泳がせながら逃げた。
分からない………訳がない。
だって、あんな生々しい真実を話せると思うか?
こんな純粋な目をした子に…!
「え?そうなんですね………それじゃあ、舳丸さんに聞いてみますね!」
「ちょっと待ったぁー!!」
なんでよりにもよって舳丸の兄貴!?
下手すると俺が分からなかったから、なんて伝わってどうなるか分からない…!
「ご、ごめん!!本当は知ってる!!知ってるんだ…!」
「えぇ!?なんで嘘ついたんですか…?」
「そ、それは………」
悲しげに瞳を揺らした◯◯に胸が痛む。
このまま誤魔化しても、きっと駄目だろう。
俺は覚悟を決めて◯◯に耳打ちした。
「す、凄く恥ずかしい事だから、一回しか言わないぞ……」
「?、はい…?」
「っ、ま、まず……」
そこから先はあまり覚えてない。
初めはきょとんとして聞いていた◯◯も、みるみる内に顔が赤くなっていく。
一通りの説明を終えて、俺はため息を吐いた。
「…わかった?」
「……はい、あの、ありがとうございます………」
少女が大人の階段を登る瞬間を見てしまったかも知れない。
羞恥心からか、◯◯はくるりと俺に背中を向ける。
「わ、私、なんて質問を………重さん、ごめんなさい…っ」
「い、いや!兄貴達も俺も教えなかったし…!こっちこそごめん…!(?)」
一体何が正解だったのか分からないが。
でも他の男に聞かれるより、俺で良かったような…!
……気まずい。
「本当、ですか…?引いてないですか…?」
「引いてないけど……」
恥ずかしい。
だけどここまで喋ったんだ。
俺は◯◯が大切だから…。
「こ、こうゆう事ってさ、やっぱり女の子の方が負担が大きいから。……本当に◯◯が、心の底から信頼出来る男とするんだよ」
出来ればその男が、俺だったら。
なんて過ぎったが心の中にしまう。
「…はい、ありがとうございます」
居た堪れなくなったのか、◯◯は部屋を出る。
次に顔を合わせる時、まともに見れるだろうか。
いや、多分大丈夫だろう。
俺はこの時、◯◯の気持ちなんて知るよしもなかった。
(…重さんとの赤ちゃんが欲しかったから、なんて言えない)
22/07/07
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