sample | ナノ
「あ!義丸さまが来たわ〜!じゃあ行ってくるわね◯◯っ」
「うん。いってらっしゃい〜」
ひらひらと手を振ると、私の友人・友子は満面の笑顔で義丸さんの元へと小走りで走っていく。
海を背景に、見つめ合う美男美女はなんて絵になるのだろう。
素晴らしい目の保養にはぁとため息を吐くと同時に、着物の間に挟んでいた大量の文の中の一枚を取り出し、眉を顰める。
「今日もモテモテだなぁ……」
私が。ではない。
これは全て友人の友子へと当てた恋文である。
今日も今日とて「友子さんのお友達ですよね!?あの、これを…っ」と真っ赤になりながら渡してきた男の人はこれで何百人目だろう。
もう既に友子には、義丸さんがいるのに……。
伝える勇気がなく、断りきれなかった私。
「どうしたらいいんだろ、これ……」
「どうしたらいいんだよ、これ……」
「「まぁとりあえず渡すしかないか……」」
「…ん?」
「へ?」
声が重なり横を向くと、そこには私と同い年ぐらいの男の人が立っていた。
黒髪で無精髭を生やし、右頬には傷があり、左袖には合印が…。
義丸さんと同じ兵庫水軍の一員だとわかり、慌てて挨拶する。
「こ、こんにちはっ、お邪魔してます」
「こ、こんにちは。…あのさ、さっき言ってた事って」
「!、えっと、実は…」
やはり突っ込まれ文の事を話すと、黒髪の男の人は目を見開いて驚いていた。
「君も…?」
「え…?」
「あ、ほら、あそこに色男がいるじゃん?俺たちの兄貴で、義丸っていうんだけど…」
そう言うと、男の人は着物の間から何かを取り出して私に見せつける。
それはすぐに義丸さんへと恋文だと分かり、共感する。
思わず私も友子に寄せられた文を彼に見せる。
「実はさっき話してたこと、今義丸さんの目の前にいるのが…」
「え、あの子が!?」
「はい。友子って言うんですけど、凄く美人で性格もいいからモテモテで…」
「そっかぁ。義丸の兄貴もあの通り男前だろ?恥ずかしいから渡してくださいって、いつもこんな感じで…」
「あ、私も似たような感じです」
「あはは!凄いね俺たち…!」
釣られて私も笑顔になりふふっと笑う。
そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
「改めまして、私◯◯って言います。あなたは…?」
「俺?俺は航!よろしく◯◯ちゃん」
「航さん。もしかして私と歳近いですか?」
「十七だけど」
「あ、私一つ下です」
予想通り歳が近く、話が弾む。
なんだか航さんは、私と似ている。
お互い目立つ存在ではないけれど、誰よりも情熱を秘めていて…
「…あー、◯◯ちゃん」
「はい?」
「その、良かったら、なんだけど……」
「……このあと時間ある?」
お互い、同じ事を考えていたらしい。
私は少しだけ照れると、
「はい…」
これから何かが始まる予感に、胸を躍らせた。
基本敬語で礼儀正しいと思いますが、初対面でタメな航にも憧れました。
22/06/13
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