sample | ナノ
「やっぱり東南風がいると心強いな〜」
「見守ってやるんだからもし告白しなかったらぶっ飛ばすからな…」
「わ、わかってるって!」
次の日。約束通り浜に集合した俺たち。
茶屋に続く道中で航とそんなやり取りをしながら足を進める。
この浜沿いの道は何度か歩いてはいるが、そういえば航の言う茶屋に俺はまだ寄った事がなかった。
今回初めて行くなと思いながら、ふと航を見てある違和感に気づいた。
「お前なんか髪が湿ってないか…?」
「あ、これ?俺◯◯ちゃんに会う前にいつも風呂に入ってから行くんだっ。ほら俺汗臭いし…」
そこまで気を配っていた事に感心した。だが濡れたままの髪はどうなんだろうか。
強引に航のバンダナと髪紐を解くと持っていた手拭いを被せた。
「うわっ!ちょ、何…!?」
「ちゃんと拭け」
ガシガシと無造作に拭いて髪を乾かすと次いでに結ってやった。
よし、これでいいな。
「ありがとう東南風」
「ったく……あ、もしかしてあの店か?」
話している内に茶屋が見えたので指差すと航は「あの店!」と答えた。
すると航は途端に顔を赤くし、近くの茂みに隠れたので俺も一緒に座り込む。
「◯◯ちゃんがいる…」
「あの人か」
店前で箒を持って掃除をしている女性に目を向ける。
あれが航の想い人の◯◯さんか。そして顔を見て納得した。
(なるほどな。やっぱり航はああいう子が好みか…)
航の話していた◯◯さんと、実際の◯◯さんからも控えめで物腰柔らかそうな雰囲気が伝わってきて好感が持てた。
掃除の途中、通り過ぎていく商人に笑顔で挨拶すると、店主に呼ばれたのか店の奥へと入っていく。
そして先ほどの◯◯さんの眩しい笑顔にやられたらしい。
はぁと恍惚そうにため息をつく航。
「◯◯ちゃん、今日も可愛いなぁ……」
「ほら、客もいない今の内だぞ」
「ま、待って!深呼吸させて!」
だいぶ緊張しているのか航は最後に息を吐くと「よし!」と決意してぎこちない足取りで向かった。
俺はこのまま航の恋路がどうなるか見届けようじゃないか。
店から出てきた◯◯さんが航がやってきた事に気づいた。
「航さん!いらっしゃいませ。こんな早くから来てくれたんですね」
「こ、こんにちはっ」
早速席に着くと航は「団子5皿ください!」と元気よく注文した。そんなに食うのかお前。
注文を受けると◯◯さんは店主に声をかけ、他の客がいないためか航の隣に腰を下ろした。
その様子から航に対してだいぶ好意的に思っているのがわかった。
良かったな航。お前の一方的な想いじゃなさそうだぞ。
「今日は水軍のお仕事はお休みなんですか?」
「う、うん。だから◯◯ちゃんとこの団子食べようかなってっ」
「ふふ、嬉しいです」
笑顔の◯◯さんを前にする度に航の顔が赤くなる。
そうこうしている内に団子が出来たらしく、◯◯さんは運び終えると「ごゆっくりどうぞ」と一言残して離れていってしまった。
どう切り出していいか悩んでいるのか、航はもくもくと団子を食べながら眉を寄せている。
(おいどうする。早くしないと他の客が来るぞ…)
それはわかっているらしく最後の団子を平らげ、一気に茶を飲むと航は意を決したのか立ち上がった。
店主と話をしていた◯◯さんに声をかける。
「◯◯ちゃん!」
「航さん?もしかしてご注文ですか?」
「えっと、そうじゃなくて…」
もしや二人きりになりたいのか。
そんな航の様子に店主は何かに気づいたらしい。
「◯◯ちゃん!あとの事はいいからこの兄ちゃんとちょっと向こうで話してきな」
「え?まだ仕込みがありますし…」
「いいからいいから!そういえばアンタよくうちの店来るよね。いつもありがとね〜」
「あ、ありがとうございます…!」
こちらもありがとうございます店主さん。空気の読める方だ…!
二人が移動したと同時に俺も気付かれないように後をつけていく。
ちょうど良い草原を見つけ、二人がそこに座り込むのを確認すると俺も近くに木に身を隠した。距離があるため必死に聞き耳を立てる。
「こんなこと初めてですね。吃驚しちゃいました」
「ご、ごめんね。急に呼び出して」
「いいえ。それより……お話ってなんですか?」
「…あの、さ……」
今にも消え入りそうな声で話し始めた航。
頑張れ航。俺も応援しているぞ。見てるだけだけど。
「◯◯ちゃんって、こ……恋人とかいる!?」
「えっ?」
いきなり予想外の言葉に俺はずっこけた。
え、お前それ◯◯さんに確認してなかったのか。いたらどうするんだ。
「まさか!いませんよ〜」
「そ、そうなんだ…」
「航さんは恋人はいるんですか?」
「俺!?いるわけ無いってっ」
とりあえず◯◯さんに恋人がいない事に安堵した。
いちいちハラハラさせてくる奴だ。気を取り直して再び見守る事にする。
「そうなんですか?意外ですね」
「意外って…。はは、俺こんな顔だし?」
「だって航さん、凄く逞しいですし優しいから…」
「!?」
その言葉を聞いて俺も航と同じく目を丸くした。
無意識だったのか、ハッと口元を押さえると◯◯さんは航を見ながら顔を赤くする。
これは…。
「そのっ、前に私が少し体調悪くした時あったじゃないですか。あの時凄く心配してくれたのが航さんだけで……だから」
「そ、そりゃ心配するよっ。だって俺……
◯◯ちゃんが大好きだからっ」
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