sample | ナノ
紅と白粉、櫛に簪に、懐中鏡、色とりどりの手拭いが床に並べられ、俺はまじまじとそれを見ていた。
◯◯ちゃんの部屋に遊びに来ていた俺。
他愛もない話をしながら、ふと机の上で見つけた、彼女の物であろう其れ。
何となく気になってしまい、◯◯ちゃんに聞いてみた。
「◯◯ちゃん、この小さい入れものは何?」
「それですか?白粉ですよ」
「おし…ろい?」
って、なんだ?
聞き慣れない単語に首を傾げてると、◯◯ちゃんはそのおしろい?の入れ物を手に取ると説明してくれた。
「この刷毛に白粉を取って、こうやって顔に付けて肌を白くするんです」
「わぁ、すっごい。白くなった…!」
「ふふ、私は控えめな方が好きなので、これよりもっと薄く塗るんですけどね」
言うと◯◯ちゃんは自分の頬に付いた白粉を指先で拭った。
其れはあとから女の子の化粧道具だと分かり、他にはどんな物があるのか聞いてみたら、嬉しいのか◯◯ちゃんは次から次へと教えてくれた。
俺は未知の女の子の世界に興味津々だった。
だって男の世界には無いものだぞ?
それになんだが、秘密の奥深くを覗いているようでドキドキする…。
「今日の◯◯ちゃんは…あ、白粉してるね?」
「はい。ほんの少しだけなのに…よく気付きましたね?」
「うん。◯◯ちゃんは元から可愛いけど、なんか今日は更に可愛くて綺麗だったからっ」
「……あ、ありがとうございます」
思ったまま言うと、照れたのか◯◯ちゃんの頬が赤く染まった。
白い頬も好きだけど、やっぱりこっちの赤く染まった頬が一番好きかも知れない…。
もっと可愛い彼女が見たい、と思った俺は。
「ねぇ、◯◯ちゃん。この紅も差してよ」
「え、紅…ですか?」
「うん。まだ見た事ないし」
何度も◯◯ちゃんの顔は見てきたけど、そういえば唇の色が変わった姿を見たことがないのを思い出した。
どうしてだろう。
けっこう街中の女の子達は紅を差してたから、◯◯ちゃんも付けてておかしくないはずなのに。
「…この紅は、私にとって特別なんです」
「特別?」
「はい。大切な時に付けたくて…」
「大切な時…?」
って、なんだろう。
じっと◯◯ちゃんの双眸を見つめていたら、逸らされて彼女の顔が真っ赤に染まる。
「…っ!…◯◯ちゃん、あの、……」
それって、もしかして…。
普段は割と鈍感な癖に、なんでこの事には気付いてしまったんだろうか。
俺と◯◯ちゃんは付き合ってだいぶ経つけど、つい最近、やっと口付けを交わした仲になったばかりだった。
どうにかこの先に進みたくて、だけど今一歩踏み出せなくて、いつも怖気付いていて…。
今なら、なんとか行ける気がする。
「……ッ、ち、近いうちに、そうしようか…」
「!、…はい……」
やっぱり、俺はヘタレ海賊だった…。
そうか。◯◯ちゃんの紅を差した姿を見るには……そうするしかないのか。
きっと、月明かりと一緒に見える彼女のその姿は、最高に綺麗なんだろう。
絶対、俺の方から誘うから…。
どうかもう少しだけ、待っててほしい。
2021/02/05
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