sample | ナノ
町での用事が早く終わり帰り道。ふと視線を端にやったら小さくてきれいな花を見つけた。
俺がその花を見て真っ先に浮かんだのが、恋人の◯◯ちゃんの姿だった。
◯◯ちゃん、この花好きそうだな…。
しゃがみ込んで、色とりどりの花達をじっと見つめる。
「…◯◯さんにあげるのか?」
「えへへ、◯◯ちゃん喜ぶかなぁ」
「喜ぶんじゃないか?」
ふっと笑ってくれた東南風を横に俺は花を摘んでいく。
一通り摘み終えると立ち上って歩き出した。
「これなんて花なんだろうな、東南風?」
「お前知らないのに摘んだのか…」
「い、いいだろ別にっ。で、この花知ってるのか?」
「わかるわけないだろ」
「だよなー…」
野郎にはほぼ縁のない物だし…。
何の花なのかは全然わからないけど、とにかく小さくてきれいな花だ。純粋に◯◯ちゃんに似合うと思った。
もしかして、◯◯ちゃんならこの花を知ってるかもしれない。
早く◯◯ちゃんに会って、この花を渡したい。
きっと笑顔で受け取ってくれるだろう◯◯ちゃんを思い浮かべながら、俺は東南風も付き合わせて急ぎ足で館に帰る事にした。
「航さん、東南風さんっ。おかえりなさい」
「ただいま、◯◯ちゃん!」
「ただいま、◯◯さん」
帰ったらすぐ◯◯ちゃんに出会う事が出来た。俺は慌てて懐に花を隠す。
これから夕飯の準備でもするのか、◯◯ちゃんは両腕いっぱいに野菜を抱えていた。
俺はすかさず◯◯ちゃんの腕から野菜を受け取ると、炊事場まで歩いていく。
「◯◯ちゃん、俺が持つよ」
「いいんですか?ありがとうございます」
今日も◯◯ちゃんに癒されていたら、いつの間にか東南風がいなくなっていた。
きっと二人きりにさせてくれたんだろうな……ありがとな東南風。
炊事場に辿り着いて、大量の野菜達を台の上に置いた。
「今日の夕飯は何を作るの?」
「ふふ、今日はですね……ん?航さん、その花は…?」
手に持っていた花を◯◯ちゃんは見つけてくれた。
俺は待ってましたと言わんばかり、花を差し出した。
「帰り道に咲いてたんだ。◯◯ちゃん喜ぶかなと思って」
「私に…ですか?」
「そうだよ」
にこりと微笑み返すと、◯◯ちゃんの顔がパァと明るくなった。
「わぁ……ありがとうございます!」
嬉しそうに花を受け取ってくれた◯◯ちゃんに満足する。
あぁ、この笑顔が見たかったんだ…幸せ者だな俺。
思った通り、その小さな花達は、◯◯ちゃんに似合っていた。
「きれい…あとで部屋に飾りますね。あ、押し花もいいかもっ」
「気に入ってくれた?」
「はい!…この花の、花言葉も好きですし」
ん?花言葉?
と言う事は……◯◯ちゃんはこの花を知っている。
「私の故郷の村にもよく咲いてたんですけど、『思いやり』って、意味のある花なんです」
「!、そうなんだ…」
何となくいいなと思って摘んだ花が、そんな意味があったなんて……嬉しくなった。
「俺、全然その花わからなくて、吃驚したんだけど……本当に◯◯ちゃんに似合ってたね、その花」
「え?私は航さんの方が似合うと思ったんですけど…」
「じゃあ、俺たち両想いだっ」
「…そうですね」
照れてるのか、頬を染めて言った◯◯ちゃんに俺も顔が熱くなる。
花もきれいだと思うけど、やっぱり◯◯ちゃんの方がきれいだ。
って、言おうと思ったけど…。
俺も照れくさくなって、言えなくなった。
2020/12/13
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