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「「あ………」」

「…………」

「…………」

「や、東南風さん…」



偶然、町を歩いていたら同じ兵庫水軍の仕事仲間である東南風さんと出会ってしまった。
第三協栄丸さんの遣いか非番のどちらかだろうか。

私はというと、朝から新作の櫛や反物巡り、甘味処と……要するにこれでもかというくらい休日を楽しんでいる最中だった。

東南風さんに出会うとは思ってなかった私は困ってしまった。

というのも……。


「…奇遇ですね、◯◯さん。買い物ですか?」

「は、はい。東南風さんは…?」

「俺は久しぶりにゆっくりしようと…」

「あ、お休みなんですね…」


そこで会話が途切れてしまった。

私は東南風さんに少し苦手意識を持っていた。

あまり感情を表に出さないし、口数も少ないので何を考えているか分からないし、顔も怖いしで……よくよく考えてみれば水軍の中で一番関わりを持ってない事に気づいてしまった。

東南風さんの相棒である、航さんとはよく話すんだけどな……彼とは正反対で感情豊かでとても話しやすいから。

どうせなら航さんと会いたかったな。なんて思っていたら、呆然としていたのか声をかけられハッと目を覚ました。


「◯◯さん、大丈夫ですか…?」

「え!?だ、大丈夫です…?」


思わず疑問系で返してしまった。

もしかして東南風さん、心配してくれたのかな…?

…凄く失礼な事を考えていたから、心が痛んだ。


「……昼ですね」

「え?」

「◯◯さんは食べましたか?」

「あ、まだですけど…」


少しだけ甘い物は食べたけど。お昼はこれからだった。


「良かったら、一緒に食べませんか?」

「!?」































「うどん二つ、お持ちしました!」

「ありがとうございます。◯◯さんどうぞ、冷めないうちに」

「あ、ありがとうございます……」


どうしてこうなってしまったんだろうか。

まさか東南風さんからご飯のお誘いが来るなんて、予想外だったから考える間もなく承諾してしまった。

近くにあった美味しそうなうどん屋さんに入った私達。
気になりつつも女性一人では入りづらかったからちょうど良かったかも知れない。

東南風さんから提案してくれたけど。
もしかしてうどんが好き…?


「いただきます」

「わ、私もいただきますっ」


手を合わせて箸を持つと、早速注文したうどんを食べ始めた。

美味しい…。

半分ほど食べ、少し休憩しようと顔を上げたら東南風さんの食べてる姿が目に映った。

その一連の動作に、私は思わず見入ってしまった。


(東南風さん、凄く綺麗に食べるなぁ……)


水軍館で何度も一緒に食事をしていたはずなのに……今頃気付いた自分の鈍感さに情けなくなる。

こうやって、間近で東南風さんの顔を見るのは本当に初めてだった。

ずっと怖いと思ってたから知らなかった……あ、額にも傷があったんだ。

東南風さんってクマが凄いけど、ちゃんと寝てるのかな?

あれ、よく見たら、東南風さんの顔立ちって。

……かっこ…。


「…あの、◯◯さん」

「へ?」

「俺の顔に何か付いてます…?」

「!?!」 


私はどれだけ長い時間じっと見つめていたんだろうか。
東南風さんに気づかれてしまった。

気まずさと焦りのせいで言葉の整理が追い付かず、とんでもない事を口走ってしまった。


「ご、ごめんなさい!違うんです…!つい東南風さんがカッコ良く…て……。…!?」


じわじわと理解した瞬間、私は顔が熱くなった。

え、何を言ってるの私。

これじゃあまるで…!

東南風さんはうどんを食べる事をやめ、吃驚し過ぎたのか呆然と私を見つめている。

余計に居た堪れなくなり、あわあわと視線を泳がす私。


「わ、忘れてください……っ」


とうとう恥ずかしさに耐えきれなくなり、俯いてしまった。

あぁ今すぐにでも去りたい……けど、まだうどんが残ってるから食べなきゃいけない。

決心して箸を取ると同時に顔も上げなきゃいけないため、嫌でも東南風さんを見ることになってしまい。

…私は目を丸くした。


「東南風さん……?」


真っ赤に染まっていた。

……東南風さんの顔が。

さっきは恥ずかし過ぎて見れなかったのに、何故だかその表情には惹かれ目が離せない。

今度は東南風さんが慌てて私から視線を逸らし、どうしたらいいか分からないのか、口元を抑えている。

え、何これ。
東南風さん、照れるとこんな顔するんだとか、意外だとか、カッコいいと言われて…?、色々な言葉が浮かんできたけど。

…初めての感情に、戸惑いを隠せない。


「あ、ありがとうございます………」

「あ……い、いえ!こちらこそ…?」


お礼を言われたけどどう返事を返したらいいか分からず、またぎごちなくなってしまった。

でも不思議とさっきのような気まずさは無く、私達の間には心地のいい空気が流れていた。


「早く食べましょうか。伸びますし…」

「そうですね…」


残りのうどんを食べ終えるとチラリと東南風さんを見てみる。
すると東南風さんも私を見ていたから、お互いバッと視線を逸らした後、再び視線を合わしたから、可笑しくてくすくすと笑ってしまった。

東南風さん、笑うとこんな顔するんだ……。

また一つ、東南風さんの事が知れて私は嬉しくなった。

























「東南風さんありがとうございます。ご馳走様です」

「俺から誘ったので」


会計を済ませた東南風さんにお礼を言うと二人して歩き出した。

店を出る前にこれからどうしようかと話していた所、なんと私の買い物に東南風さんが付き合ってくれる事になったのだ。

目的の店に向かっていく中、東南風さんと話す。


「急に誘ってしまいすみませんでした。きっと吃驚しましたよね?」

「はい、最初は。…東南風さんとこんなに話したの、初めてでしたね」

「そうですね」


ふっと微笑んでくれた表情に、私はまたドキっとする。

さっきから彼の一面を知る度に、心臓が煩くて仕方ない。


「…◯◯さんとは全然話した事がなかったので。だからお誘いしてみたんです」


あ、それは……と。私はちくりと胸が痛んだ。

でも今となっては、完全に東南風さんに対するイメージが変わった私。

もし東南風さんが、誘わなかったら、ずっと私は彼を知らないままでいたのだろうか。

そう思うと恐怖を感じてしまうくらいに…。

私はもう既に、彼に惹かれ始めていた。


「ありがとうございます。私、もっと東南風さんの事が知りたくなりました。これからはもっとお話してもいいですか…?」

「!、…もちろんです」


少しだけ朱に染まった頬に、受け入れられたと確信し安堵する。


「俺も、もっと◯◯さんの事が知りたいです」


不意に言われたその言葉に。

今度は私が、顔を赤くした。





2020/11/08


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