黒ぶちの伊達メガネにパーカーのフードを被って、耳にはイヤホン。流れる音楽はもちろん沢田綱吉。山本が降りる一つ前の駅で降りて、目の前の帽子を被った小柄な男のうしろを一定の距離を保って歩く。にぎやかな駅前の大通りを抜けて住宅街へ入り、小さなマンションへ入っていく彼を見送る。彼がきちんと部屋へ入るのを確認してから、山本はようやく安心したように笑った。
学校が終わってバイトがない日は大抵そうやって過ごすようになった。
仕事が終わった彼を自宅まで見送る。
だって彼はとってもかわいいから、なにか悪い虫が付いてしまったら堪らない。だからこうして自分が目を光らせているのだ。
ひとまず今日は大丈夫だろうと踵を返す。瞬間、サッとなにかが住宅の影に隠れた。嫌な予感がする。山本はなるべく気配を消して大股で『それ』に近づく。そうして『それ』が隠れた場所を勢いよく覗き込んだ。
そこには誰もいなかった。だけれど確かに『なにか』がいた気配がした。
彼はかわいいから、きっと質の悪いストーカーがいるのかもしれない。山本はそう思って、次の日からさらに彼の周囲に目を光らせることにした。


その日も彼に悪い虫が付かないように目を光らせながら、背後からそっと彼を見守っていた。
彼の住まうマンションの近くには公園があって、そこを抜けるとマンションまで近道になる。本日もそのように、彼はその公園に入る。もちろん山本もそれに続く。
砂場を通り過ぎて少し錆びれたブランコを横切る。この公園は夜になると少し暗くなって危ないから、山本が一層気を張っていたときだった。がさりと大きな音を立てて近くの桜の木からなにかが出てきたと思ったら、あろうことかそのなにかは彼に襲いかかり羽交い絞めにして口を覆い、そのままトイレに連れ込もうとした。
「なっ…!?」
「んー!んー!」
苦しそうにもがく彼の呻き声を聞いて山本は急いだ。早く彼を助けなければ。

彼は俺の大事な──なのだから。

山本がトイレに駆け込んだのと、『なにか』が彼を個室に連れ込もうとしたのはほぼ同時で、考えるより先に持ち前の運動神経でもって、先に山本がそれを阻止することに成功した。
「なにやってんだ、おまえ」
射抜くような視線。地を這うような低い声。ひっ、とその『なにか』は小さく声を上げた。
「お、おまえが、ツナたんのス、ストーカーだな!」
「誰がストーカーだって?」
笑わせるな。俺はツナの──だ。
「だ、だから、僕は、おまえからツナたんを守るために…っ、」
「うせろ」
ぎろりと低い声で睨んでやると、その『なにか』は顔を真っ青にして逃げていった。ひーひー言いながら這うように逃げていくそのうしろ姿を鼻で笑って、ゆるりと視線を彼に向ける。相当恐かったのだろう、彼はトイレだということも忘れてそこへ蹲ってしまっている。山本は悲壮な表情を浮かべて彼の前にしゃがんだ。

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