5月24日 | ナノ

沢田綱吉。
顔と名前にかなりのギャップがある、今人気の"かわいい系"アイドル。
彼には恋人がいた。
元は彼のファンだった、超が付くほどイケメンの"男の"恋人が。

*

「ただいまー」
がちゃりと部屋の扉を開けると、すぐに部屋の向こうにいた人物に抱き締められた。
「おかえり、ツナ」
ぎゅうっと、熱いくらいの抱擁をした彼がツナの恋人、山本武だ。
そのままキスをしようとした山本をツナはめずらしく制す。どうしたのかと山本が顔を上げれば、ツナのマネージャーである、淡いピンクがかったブロンドの髪が美しい、ビアンキという女性が腕を組み立っていた。
なるほどと納得するも、山本はビアンキを見て眉を顰める。
「相変わらずこのヒモ男と付き合ってるのね。もっといい男紹介してあげるのに」
「…なんか用っすか?」
冷めた目で山本を見るビアンキと、ツナを抱き締めたままビアンキを睨む山本。相性が悪いのか、二人が顔を合わせるといつもこの調子だ。
ちなみに、ツナの恋人が男前提ということには誰も突っ込まない。なぜなら、ツナのファンは女性より男性の方が多かったりするからだ。
「別に。ツナ宛てのプレゼントを運んだだけよ」
そう言ってビアンキは、足元のダンボールと紙袋を玄関に置いた。
「どーも」
「ごめんね、ビアンキ。ありがとう」
「明日はオフだから。あさってのスケジュールは…、また明日連絡するわ」
お疲れさま、と言ってビアンキは帰っていった。



ビアンキが帰ったあと、ダンボールと紙袋を部屋へ移動させ二人はリビングのソファに腰を下ろした。
「ツナ、今日のバラエティどうだった?セクハラとか変なことされなかった?」
ツナを膝の上に乗せて山本は問う。この容姿なので、ツナはたまにセクハラを受けたりナンパされたりするのだ。元ファンであり、ツナ大好きな山本は、毎日気が気じゃない。
「今日は大丈夫だったよ」
「そっか」
ホッと胸を撫で下ろして、ツナの色素の薄い髪を撫で梳く。
「あ、来月からマネージャー変わるんだ」
「あいつ辞めんの?」
「俺のマネージャーじゃなくなるだけ。新人のね、アイドルの子のマネージャーやるんだって」
「へぇ。じゃあツナのマネージャーは誰がすんの?」
なんだかんだ言って、彼女はとても有能だった。頭の切れる女性だったし、とても武術に長けていたから、何度も危ない目に遭ったツナをいつも助けてくれたりして、山本はこっそり彼女に感謝している。気持ち悪いと言われそうだから、本人には絶対に言わないけれど。

「まだ決まってないけど…。今度は男の人かなぁ」

その言葉で山本の眉がぴくりと動く。
そりゃあ男の方がなにかと安心かもしれないけれど。忘れちゃいけない。ツナはやたらと同性に人気があるのだ。

「なぁ、ツナのマネージャー、俺がしちゃダメ?」

「え、」
「ツナの帰り待ってる間、気が気じゃないんだ。ツナかわいいからさ、すげー心配…。マネージャーならさ、ずっと一緒にいられるし、」


「だめ!」


今度は山本が驚く番だった。絶対に喜んでくれると思っていたのに。
「なんで、」
「山本、かっこいいからダメ!山本がこっちの世界に入ったら、すぐスカウトされちゃうもん」
「んなの俺断るよ?」
「いやだ。それに、かわいいモデルさんとか美人の女優さんとかいっぱいいるんだよ?山本、絶対モテるもん」
「俺、ツナ以外興味ねぇよ?」
「それでもダメ!山本はマネージャーになっちゃダメだからね!」
必死になって山本がマネージャーになることを阻止しようとしているツナが、どうしようもなく愛しく思えた。これは明らかに自分に独占欲を抱いている。まだ見ぬモデルや女優に嫉妬している。
山本は思わず、ぎゅうっとツナを胸に抱き込んだ。
「わかった。ツナが言うならマネージャーはやらない」
「うん…」
それを聞いて、ホッとしたように身体を預けてきたツナのつむじにそっとキスを落とす。
「明日オフなんだっけ?なにする?どっか行く?」
「ずっと山本とこうしてたい…」
「ん。じゃあビデオでも観よっか。ツナがずっと観たいっつってたやつ、借りてきたんだ」

ファンから恋人に成り上がった俺に出来ることは、大切な君を守ることとずっとそばにいること。

今度、ツナの事務所の社長に、信頼出来るマネージャーを付けてくれと直談判でもしに行こうかと、山本はこっそりそう思った。



尽くして、
尽くされて



081024
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お題提供:31D様「1年365日/誕生花のお題」より「5月24日 ヘリオトロープ」

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