「アリス、アリス、アリス!!」

女の声が脳裏に響く。
風はそよそよという感じだろうか、ビュッーではないのは確か。
ぼやけた視界の前には見覚えのある女の顔が一つ。

「アリス!!まったく・・・なんであなたはいつも寝てしまうのかしら。」

呆れた顔で言葉を紡ぐ女、名はエリザ。
詳しい事は言わないでおくが私の姉にあたる人だ。
きっと姉、姉だろう、姉ですよね?

「仕方がないじゃない、エリザ。春は眠りの季節なのよ。」

反発的な口調は私の性格。
春は眠りの季節というのは私の常識。
きっと眠り姫だって春に寝たのよ、きっと。

「アリスはアリスでもまったく違うわね。」

きっとエリザはあの有名な書物のアリスと私を比べているのだろう。
仕方ないじゃない、私は私。あの子はあの子だわ。
と口に出して反発しようとしたけれど胃までしっかりと飲み込んでおいた。
ここでまた反発でもしたらお叱りを受けそうな気がして。
怒られるのは性に合わないの。

「アリスになれるように努力はしているつもりよ。」

まったくの嘘ですけどね。そんな努力なんてした事がないわ。
考えた事もなかったもの。

「嘘おっしゃい。」
「バレたか。」
「バレバレよ。」

そう言ってエリザはくすりと目を細めて笑った。
エリザは可愛いな、私と違って。
姉妹なはずなのに何故こんなに違うのだろう。
時々考えこむけれど、深入りしすぎたら戻ってくる自信がないのでいつも途中で放棄している。

「さあ、屋敷に戻りましょうか。」
「ちょっとまって。私はあそこの花を摘んで帰るわ。」
「そう、早く戻ってらっしゃいよ。」

たまにはお花摘みだってするのです。一応女の子ですから。
エリザが屋敷に戻っていく背中を小さくなるまで見つめた。

「さあ、私も行こう。」

反対の道をとぼとぼと歩く。
途中で蝶が花の蜜を吸っているのを少し見学した。
なるほど、蝶はああやって蜜を吸うのか、私もためしてみようかしら。

花畑に行く途中に何やら動物の足跡を見つけた。
形はそう・・・ウサギみたいな形。

「アリスは時計を持った白ウサギを追いかけて不思議の国へ行ったんだっけ。」

考えながらその足跡を追ってみる事にした。
白ウサギに会えるかな、なんてそんな馬鹿な事は微塵も思っていない。
思ってなかったけれど。

「遅刻だ。遅刻だ。遅刻だ。」
「白・・・ウサギ。時計を持っているわ、それに『遅刻』って。」

もしかしてこれはあの白ウサギかしら。
私の元にもアリスの運命の足音がやってきたのかしら。

「まって!白ウサギさん!」
「遅刻だ。遅刻だ。ああ、遅刻だ。」

何度も『遅刻』という言葉を繰り返しながら慌てふためいて走る白ウサギを追いかける。

「ああ、遅刻だああああああ。」
「ええええ!?」

叫びながら穴へと落ちた。私じゃなくウサギが。あの白ウサギが。
これはアリスフラグではありませぬか。あのアリスフラグでは。
私はこの穴に落ちていいのだろうか。ここに落ちればアリスと同じ運命を歩めるのだろうか。

「落ちてみる価値あり。」

えいっ!と心で叫びながら落ちてみた。
暗い地球の裏。不思議の国へ真っ逆さま。
半無重力状態。もはや無重力。いや、重力があるから下に落ちているのか。
そんな事はどうでもいいのですが。

「アリス、アリス・・・。」

どこか聞き覚えのある声が脳裏に響く。
この声は誰の声だったっけ。
落ちながらも必死に考える。
誰の、誰の・・・誰の・・・エリ・・・。

「アリス!!」
「わあ!!!」

答えはエリザの声。

「まったく・・・なんであなたはいつも寝てしまうのかしら。」

この台詞、どこかで聞きましたよね。
確か数分程前に。

「エリザ、私どれくらい寝ていたのかしら?」
「1時間ぐらいよ。寝てばかりね。」

ああ、あれは全部夢だったのか。
あの白ウサギも夢だったのか。
それにしてもリアルな夢だったな。
自分の夢のクオリティに感心してみる。

「仕方ないじゃない、エリザ。春は眠りの季節なのよ。」

繰り返しの国のアリス
「遅刻だ。遅刻だ。遅刻だ。」


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