「やれ、三成。何処へ行く」


立ち上がりどこかへ向かおうとする三成に形部は声をかける。
日は傾き、空が茜色に染まる頃だった。
紫色の羽織に茜色が薄らと係り、なんとも美しい色を織り成している。


「形部には関係ない。すぐに戻る」


無愛想に背を向けながら返答する三成に形部はしつこく質問を繰り返す。
「お主には友など居らぬであろう」「お主が一人で行く場所など無かろう」
ただ只管に質問を繰り返す。返答は「関係ない」の一点張り。
しかし尚も形部は質問をやめようとはしない。


「五月蝿い!静かに待っていろ!私はすぐに戻る!」


ついに三成が形部に対して声を荒げた。
顔を少し赤らめ怒ったような様子。
それに対して形部はまた「顔が少しばかり赤いようじゃが」と言う。
すると三成は「夕日のせいだ。もう黙っていろ」と背を向け歩きながら言った。


形部はその様子を見て幸せそうに笑った。
不幸せを望むものが幸せそうに笑った。
なんともおかしな話だが、誰がどう見ようとそれは幸せそうな笑顔であった。


「三成は何処へいったのやら。我を一人にして何処へいったのやら。三成も成長したものよの…。クックック。」


にやにやと笑いながら独り言を呟く様子は、息子の成長を喜ぶ父のようにも見えた。
数分後、三成は何やら白い花を手に持ち帰ってきた。
ちらちらと視界に入るその白い花に形部は驚く。


「はて、三成。その花は一体・・・。」


そう言うと三成は花を持っている方の手を形部の前へと突き出した。
その花は「ほほう・・・白い彼岸花か。」
三成はその白い彼岸花を形部の手に置いた。
どうやら形部へのプレゼントらいし。


「つい最近。そこに白い彼岸花が咲いてるのを見つけたから形部にあげようと思っただけだ。それ以外何もない」


恥ずかしそうに言う三成。その様子を見て形部はまたも幸せそうに笑った。
そして白い彼岸花を茜色の空にかざした。
白色に茜色が係る。趣のある情景が浮かぶ。


「この白い彼岸花も、主の手にかかれば赤く赤く染まってしまう。主には血しぶきが良く似合うからの」


にやにや笑いながら三成に言う。
三成は尚も恥ずかしそうに顔を赤らめた。
小さな子供のような顔の赤らめ方は何人もの人を次から次へと殺すなど姿など似合わないようだった。


「五月蝿い。さっさと花瓶にでもいれておけ」
「あい、わかったわっかた」


またも形部は幸せそうに笑う。


幸せの彼岸花





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