「アーサーさん。今日は7月7日ですね。」


 何気なく自分の横に座るアーサーに話しかける。
 縁側に座り見上げる夜空は格別なものだ。


 「七夕だろ?」


 得意げな顔で返答をするアーサー。
 さては予習でもしてきたのか。
 アーサーさんの家イギリスには七夕などないはずだ。


 「ええ、そうです。今日は七夕の日です。
  織姫様と彦星様が一年に一度会える日なんですよ。
  とっても二人にとっては幸せな日ですね。」


 夜空に流れる天の川を見つめながら独り言のように呟く。
 ちょうどあれは彦星であれが織姫、などと彼に教えてやりたいが・・・。
 それはもういいか、と独りで結論ずける。


 「七夕に降る雨は催涙雨と言うんです。
  織姫様と彦星様が流す涙と言われてるんですよ。」


 かわりに彼らの体液の話をしておいた。
 今日はどうやら雨が降りそうなので。
 今はまだ空には黒い特有の雲は浮かんでいないが、
 雨の匂いが鼻をくすぐる。


 「涙か・・・。雨降らないかな?」


 笑顔で空を見上げる。
 今日は雨ですよ、と言おうといたがやめておく。
 ここで曖昧な表現を一つ加えておいてもいいかと思いまして。


 「そうですね。」


 また静かに夜空を見上げる。
 流れ星でも流れてきそうな雰囲気だが、流れ星もそう暇では
 ないみたいだ。


 「そういや、本田。七夕には何かお願い事をするんだろ?」
 「ええ、そうですが。」


 この人はいろんな知識を蓄えてきたようだ。
 その勢いで料理の知識もフランシスから学べばいいのに。


 「本田は何をお願いしたんだ?」
 「そうですね。私は―・・・。」



 一日でも早く日本が復興し、
 日本中世界中に笑顔が咲き乱れますように。


 
島国の七夕
(それが日本中の願いでありますように)
 
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