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 ガサリガサリと音を立てながら少女は進む。
 何かに、呼ばれている気がした。
 おいで、おいでと呼ぶ声がした。
 それは少女を包み込んでくれた両親のように優しくて、悪魔の囁きのように背徳的で、甘美な響きを持って少女を誘い続ける。
 今となっては日課になったこの行動、毎日変わらない繰り返しだった筈だったけれど、今日だけは違う気がした。頬を撫ぜる風も、鼻にツンと来る青々しい草木の香りも、何も変わらない。それでも、この先にはいつもと違うものが待っているように思えた。
 舗装されていない、人が歩いてできただけの道を歩み続け、真正面からしか来なかった風は道を抜けると開けた場所へと変わり、別の場所から吹いてくる。髪が風に弄ばれるのが分かった。顔にかかって少しうざったい。
 開いた場所へと辿り着いた少女は、その中心にある小さな祠の前で膝をつき、一輪の花を祠の前に置くと、流れるような動作で両手を組み目を閉じた。
 そのまま何分そうしていただろうか、少女の上に大きな影が重なる。
 目を閉じているとはいえ違和感に気付いたのだろう、少女は祈るのをやめると顔を上げた。上空には、赤色の鱗を持った大きな二足のドラゴン――分類されるとしたらワイバーンだろうか――がその大きな翼をはためかせ、少女を見下ろしている。そのまま翼をはためかせながらもゆるりゆるりと降下し、その巨体を地面に降ろした。少女は動かぬまま、その赤竜を見上げる。
 赤竜はその目をぎょろり、と動かして少女の姿を頭からつま先までしげしげと眺めると、一面の緑色に腰を下ろした。
 腰を下ろしても尚少女の顔を眺めると、やがて口を開く。

「まだ信仰を続ける者がいる事は分かっていたが…まさかこのような少女とはな」

 グルル、と唸り声のようなものの後に発された声に、少女ははっとしたようにその赤竜の顔を見つめた。赤竜はそのまま話を続ける。

「それどころか我の姿を見ても驚くどころかなんの反応も示さないとは」
「……あなたは、だれ?」

 そこで赤竜は少女の様子が普通の人間と比べおかしい事に気付く。
 とはいえ、この世界での竜は神聖なものにあたる。神の御遣いとして扱われ、信仰をされるドラゴンは強力な力を持ち続けるのだ。そのようなドラゴンが人と関わる事は少ない。少ないどころか、ほぼ無いに等しいと言っても過言ではない。だから、彼らにとって普通の人間、というものの定義はそれぞれかなり曖昧であるのだが。
 それでも、この少女は普通の人間とは異なる事がよく分かった。瞳の焦点は自分と合わず、その瞳はほぼ色を失っている。

「……貴様、目が」

 赤竜がそう言うと少女はにこりと笑った。

---以下執筆中---



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