家の近くのコンビニに濡れせんを扱ってるところがある。

初めコンビニにはただふらっと寄っただけだった。向日さんとの賭けに負けて(ちなみに芥川さんが跡部部長に怒鳴られる回数を賭けた)仕方なく奢ることになったから本当に仕方なくここを訪れただけだった。必ず次は下剋上してやる。
そう思いながら店に入って向日さんに頼まれたお菓子を持つと目に入ってきたのが濡れせん。俺の好物であるそれがコンビニに売ってることが珍しいからか、それともこの賭けに負けた俺への慰めに見えたのかやけにその濡れせんが輝いて見えた。
誘惑に負けた俺は当然濡れせんの袋も持ってレジに向かった。


「お会計410円になります」


ふと顔を上げるとレジの女の人と目があった。
黒い髪にすっとした姿勢。店員になら当たり前かもしれないが、この人は俺の中で何かが違った。まるでさっきの濡れせんのような。

信じたくないし俺がこんなことを思うのは気持ち悪いが、運命の人…というものなのかもしれない。
ネームプレートをみると名字と書かれている。そうか、名字さんか。

それから俺はこのコンビニによく訪れるようになった。
それこそ部活終わり毎日。

毎回濡れせんだけ買って帰るが、そろそろ顔を覚えられたころかもしれない。



「あ、濡れせんですね。100円になります」


覚えられてた。


「毎回濡れせん買って行ってくれてありがとうございます。あの、濡れせん、好きなんですか?」

「はぁ…まぁ…」


もっと気の利いた言葉があっただろ俺。これじゃ喋ってないでさっさと袋に入れろと言ってるようなものだろしっかりしろ。
こんな俺の言葉に対して苦笑も嫌な顔もせずに、そうなんですかと一言笑いながら言ってきた名字さんのことを女神だと思わざるを得ない。そうだこの人は女神。
この時間帯が比較的人の入りが少ない時間なのか客は俺一人しかいない。
それがわかると同時になぜか言葉を発していた。


「あの…またくるんで」

「はい!濡れせんもあるんで、またお越しください」

「いえ…あなたに会いに来ます」

「え…」


袋とレシートをひったくるように持ってコンビニを急いで出た。
言ってしまった。
だが後悔はしてない。これからあの人がどんな反応してくれるのか楽しみで仕方がないと言ってもいい。







濡れせん様
(あのせっかくですし名前を…)(日吉若です)







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -