「お前なんか嫌いなんだよバーカ!!死んじまえ!」

ざばざばと降ってる雨の中、傘なんてさす暇もなく走る。
一番の友人と喧嘩をした。
たった一言、半笑いで、名前って性格悪いって有名らしいよ。

確かに性格悪いかもしれない。こうして暴言を吐いて逃げてきたのだから。
普通にそう言われただけなら、そうなんだ。程度で済ませられたと思う。でも、半笑いだった。まるで私を馬鹿にしているように、自分もそう思っているかのように。


嫌だった。
そんなことをそんな顔で言われるとは思わなかった。



「性格悪くて、悪かったな」

「傘もささずに独り言ですか?暇ですね」




公園の木にボーっと寄りかかって呟いたら、あまり聞き覚えのない声。



「‥‥‥観月?」



顔を上げたら、同じクラスの観月はじめの姿。
これと言って話したこともないし、クラスの連中がよく言う“カッコイイ”かどうかも私には少しわからない人。
ただテニスは強いってことは知っている。

私でさえそんなもんしか知らないのに、こいつはどうして今声をかけてきたのかわからなかった。



「こんなとこに何しに来たの?あんたも暇だね。」

「随分な言葉ですね。そんなに喧嘩したのが悲しかったんですか」

「悲しい?何言ってんの。」



本当に片手で数えるくらいしか喋ったことないこいつに、ありきたりな言葉だけど、一体何がわかるというのか。



「私のことわかったフリしてるだけの同情ならいらない。」

「んふっ…一番の友達に性格悪いと言われて傷つかない人はいないんじゃないですか?」

「…!煩い!!!何、盗み聞きでもしてたのかよ!わかったようなこと言わないで!」

「他の人には性格悪いと言われてもいい、でも一番親しい人には他の面があるんだってことをわかっていてほしかった」



雨は酷くなる。
目の前にいる観月はじめの言葉も、止むことはない。
私の心に深く当たる。
本当はそれ以上聞きたくなかった。でも、足が動かなかった。



「一番自分のことをわかってくれていると思っていた人が実は何も見てくれてはいなかったから、辛い。違いますか?」

「何で、そんなに私に構ってくるの。放っておいて!もう聞きたくないよ!」

「でも、僕はこう思うんです」



私の言葉は聞く気はないのか、私が自分の耳をぎゅっと塞いでも言葉を止める気はないらしい。
顔が整っていて、頭がよくて、テニスも上手い。そんな観月はじめが私にどうしてここまで私に構ってくるのかわからない、わからない。喋ったことも数回しかない、ただのクラスメイトと言ってもいい、そんな観月が。



「性格が悪い、というより名字さんは口が悪いだけでしょう?それも自分を守る」

「‥‥‥‥。」

「本当は優しいことだって、知ってますよ。筆箱を隠されてイジメられている子を助けたのだって、知ってます」

「‥‥‥そんなんじゃ、ない」

「じゃあなんです?イジメた方を一人でボコボコにして先生に見つかって怒られて、それでも自分は悪くないとは言わずにいた貴方は優しくないなら、何なんです?」

「優しくなんかない!」

「だから誰も傷つかないように避けるように言葉使いを汚くしたんでしょう」




ぐっと涙を堪えて、絶対泣かないように拳を握る。
これ以上喋ったら泣きそうで唇も結ぶ。




「その証拠に、僕にこれほど言っているのに死ねやうざいなど一言も出ていません」




正論だった。
何も知らないはずの観月は、私のことをよく知っていた。
もうぽろぽろと流れている涙を雨ごと掬われスッと頭を撫でられる。




「もう力を抜いたっていいんです。僕がきちんと気付いていますから」

「うっ‥‥‥っ‥‥」

「信じたくないですか?」

「そういうわけじゃ、ない。っ…でも」

「でも?」



少し間が空いても、私が話すのをジッと待っていてくれてる。
それが、どうしても私にはわからなかった。

それを言ったら、僕はあなたのことが気になっているからです、だって。




「こんな状態でっ…告白なんてするなよ」

「別に返事が聞きたかったわけじゃないですからね」

「ず、るい奴」

「こうして僕に頭を預けてる貴方も十分ずるいと思いますけど?期待しますよ」


そう言っても顔は全然真剣じゃなくて、私をリラックスさせようとして言っているのが丸わかりだった。
ムカつくくらい、私のことわかっていてくれて、慰める言葉より、傍にいるだけのこの男が、ただわかってくれている傍にいてくれているだけなのにたまらなく心地いい。
嗚呼…こういう気持ちが好きってことなんだろうと思う。



「別に…期待してもっ…いいんじゃ、ない」



少しビックリした顔をしてまた穏やかに笑う。




ああ、成る程。観月はじめはこういうところがカッコイイんだと、思った。
外見やテニスしている姿よりも、人のことをきちんとわかっていて言葉を隠さない。そんなところがカッコイイんだと。



雨が止んで、観月から放たれる言葉は優しいものだった。




「きっと、明日になればあっちから謝ってくると思いますけど、どうしますか」



単に、謝った方がいいんじゃないか?って言葉じゃなくて、あっちの心情とか性格とか考えた上で断言する。
あの子のことだからきっとメールとかじゃなくて言葉で直接謝ってくると思う。でも。



「あっちから謝られたんじゃ、負けたみたい。私から謝る」

「そういうと思ってましたよ」



やっぱり、私のことを見ていてくれてる。
心地いい雨上がりの日差しが私と観月を照らした。






カッコイイということ
部活をサボって私のところに来たらしい観月にお礼と感謝と謝罪をして






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