※続 濡れせん様

月曜日。いつも通りの朝を迎えて一つ欠伸をし学校に行く支度をし始めた7時半のこと。普段は朝から携帯はいじらない私が珍しくそろそろアラーム音を変えようと携帯を手に取ったときだった。ちょうどメールがきて、携帯手に取った瞬間メールきた!なんてちょっと運命的で楽しくなってアラーム音のことは忘れて誰からメールきたのかすぐさま確認する。
日吉若の文字。意外な人からのメールで一瞬ビックリするも、彼はああ見えて結構メールするらしくしかもロマンチストだというのも最近知った。まぁシンデレラ城が好きなのは知ってたけど。今外にいますか?雹が降ってますと一言だけメールが来たときは本当に驚いたけれど。日吉くんなりに私に気を使っているのかもしれない。アドレスを交換したのにまったくメールしないのは…と思っているのかもしれない。ときどき私より年下なのに私より全然難しいことを考えてるから日吉くんといると楽しい。私と喋ってる日吉くんもそう思っていてくれるのなら私は最高に嬉しいけれど。
さて内容は、と少しワクワクしてメールを開く。しかし予想していなかったことに内容は空白。件名もなし。俗に言う空メ。今までこんなことがなかったからもしかしたら間違えて送っただけかもしれないしたいして気にはしなかった。日吉くんのことだから間違えて送ったならすぐに訂正メールなりなんなりがくるだろう。しかしいつまで経ってもメールは来ない。私が学校に行く時間になっても来なかった。おかしい。あの日吉くんが空メをわざと意味もなく送るわけがないし、間違えて送ったなら絶対に謝ってくる。それが今まで私が接してきた日吉くんだ。少し考えて空メに返信することにした。
どうかした?
もしかしたら空メを送ったことにも気づいてないかもしれない。それならそれでいいけど何か用があったなら多分これは“何かに気付いてほしい”合図なのかもしれない。
この返信はすぐにきた。予想に反して、なんでもありません。の一言。おかしい。今日の日吉くんはおかしい。
何にしろ今日もバイトで会うと思うからその時にでも聞こうと急いで学校に向かった。


名前さんが知っているわけがなかった。アドレスに入ってるわけでもないし教えたわけでもない。今日が俺の誕生日だと知っているわけがなかった。11月14日のことで浮かれていたのかもしれない。こういう変なところに気付く人だから、メールを送ったら気づくと勘違いしていたのかもしれない。
慣れないメールを必死になって送って、向日さんや忍足さんのメールは全部送り返してないのにたった1通名前さんに送るのがこんなにも難しい。前に一度“雹が降ってます”と送ったことがある。月が綺麗ですね、なんてあの人が知っていたらどうする。言いたいことがバレバレだ。だから、何分もかけて送った。好きです、の意味をこめて。あの人が俺の言いたいことに気づかなくて気落ちしたのも事実。俺のやっていることは正直自分でも意味がわからない。


ああ遅刻ギリギリ、まだ間に合うと必死に走っているとき目の前に呑気に歩いている中学生二人組が見えた。制服は氷帝学園。日吉くんと同じだと瞬時に思った。

「日吉あいつ絶対ビックリするぜ。俺たちが顔面ケーキしたら!」
「誰でも驚くやろ…。」
「うるせーぞ侑士!まっ誕生日だし絶対日吉喜ぶぜ!」

どうやら日吉くんの同級生か先輩らしい。テニスのキャリーバッグを持ってることから推測したけど。そうか、そうなのか。今日は日吉くんの誕生日…。それならさっきの謎の空メも納得がいく。日吉くんは気づいてほしかったんだ今日が何の日なのか。いい日吉くんの日から数日が経った月曜日。同じ月曜日に日吉くんの誕生日。ああ、これに気付けないなんて私は馬鹿だ。大体なんの用事も意図もなく日吉くんがメールを送ってくるわけがなかった。
そうとわかれば何かプレゼントを用意したい。何がいい、11月14日に遊園地のチケットをあげてしまったことによってこんなにハードルがあがるなんて思ってもみなかった。
静かに少し遠くで鳴るチャイムの音で遅刻したと気づかされた。


「日吉誕生日おめでとう!」
「煩い騒ぐな」
「どうしたの…?なんかいつも以上に不機嫌だね」

朝一番に鳳がクラスに来て煩く祝ってくる。下駄箱にはプレゼントが落ちるほど埋まってたし席に座れば机の中に手紙だのプレゼントだのが入っているしうんざりだ。お前たちに祝ってもらいたいわけじゃないし面と向かって渡さないやつのものなんかいらない。渡されても名前さん以外の物は断るが。

「別にいつも通りだ」
「何か嫌なことでもあった?」
「しつこい」

お前は俺の母親か。しつこく話しかけてくる鳳の言葉を完全に聞かないことにしてふと携帯を見た。何気なく見た瞬間にメールがきたことを知らせるランプが光ってタイミングがいいと思った。これで鳳の話を聞かなくてすむ。
誰からだとメールを開いたら予想にしていなかった人から予想にしていなかった内容のメールが来て思わず立ち上がった。

「ど、どうしたの日吉」
「なんでもないって言ってるだろ!!」

思わず興奮して怒鳴ったように言ったが内心嬉しくて飛びあがってるだけだ。若干顔がにやけてるんじゃないかと自分で思うほど今の俺はやばい。気持ち悪い。

「へぇ、日吉の彼女?」
「ばっ…!何勝手に見てんだふざけんな殺すぞ」
「彼女なんだ!」

鳳が余計なこと言うから周りの女子が煩くなる。余計なことしやがって鳳覚えてろ。名前さんから来た内容はグリーティングテンプレートでHappy Birthdayと書かれたものに俺を祝う言葉となんでもさっき情報の授業で名前さんが作ったらしいHappy BirthdayのBGMつきのメールだった。無言でメールを保護しBGMを保存した俺は何て返信しようかそれだけに意識を集中させることにした。


学校には遅れたが授業には間に合った私に待っていた最初の授業は最高なことに情報。いいことを思いついた。Happy BirthdayのBGMを作って送ろうと。こんなもので喜んでくれるかはわからないけれど、これしか思いつかなかった。
午前の授業が終わって昼食をとろうとしたときに携帯のバイブが鳴った。バイブ設定は電話でしか設定してないから誰だろうと見れば日吉くん。

「もしもし」
「もしもし日吉くん?お誕生日おめでとう!」
「‥‥‥‥ありがとうございます」
「こんなメールしか送れなくてごめんね?」
「俺の方こそ朝は…」
「気付けなかった私が悪いの!ところで日吉くん今日部活終わったら暇?」
「予定はないですけど」
「私ね、今日バイト休んだからちょっと会おうよ」
「いいんですか?」
「日吉くんがよければ」
「わかりました」
「校門で待ってるね」

まるでカップルのような会話をして電話を切る。まず会ったらお誕生日おめでとうってちゃんと会って言うんだ。それから、今日何したかとか、日吉くんの話を聞いて。

名前さんが俺を祝うために会ってくれる。それだけでどうしたらいいかわからなくなる。何を話したらいいか。せっかく来てくれるんだ、ほんとは校門なんかで待たせないでどこか暖かい場所で待っていてもらいたい。部外者は入れてもらえないし部室なんかに連れてきたらそれこそ煩い。忍足さんや鳳あたりが。
まずはありがとうございますと会って言うのが礼儀だろう。それから名前さんの笑った顔が見れればそれでいい。
さっき保存したBGMをアラーム音に変えて携帯を閉じた。今からが今日1日の始まりだ。


音を変えて。












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