連載日吉若が下剋上!の10年後



12月。毎年イルミネーションが増えてくる季節。
今年も寒い冬がやってきて、またみかんが美味しくなって、雪を見て…。
その前に5日。若の誕生日を祝う。

鳳くんに若の誕生日プレゼント何がいいか相談してからもう10年。結局若の誕生日を初めて祝ってプレゼントをあげたのはあの時が最初でキノコのストラップに下剋上と刺繍したものをあげたわけだけど、10年。毎年特に考えてすごいいいものをあげようとは思わなかったけれど、今年は違った。
私たちの間に生まれた子供は3歳。すでに若への絵を描いてプレゼントする気満々みたいだ。
10年前は手作り。その次の年はぬれせんと手編みのマフラー。その次は…。考えてみたら手作りが多くて作らなかった年のほうが少ない。なら、今年も妥当に手作りがいいのだろうか。何だかんだ言って若は一番初めにあげたあのキノコのストラップに刺繍したものを今でも携帯につけている。少し不格好なそれを大事にしてくれてるのは嬉しいけど少し恥ずかしかったりする。何であのときもっときちんと綺麗に刺繍できなかったの私。
あのときはまだ気軽な仲でいたせいでテキトー感が出たのかもしれない。負けない、若には負けないって気持ちは今でもあるけどそれでもそれとこれとは違う。今年はやっぱりきちんとしたい。

「と、いうことで鳳くんどう思う」
「そっかあれからもう10年かー」

結局あのときと変わらず10年経った今でも電話で話す私と鳳くん。あれから10年かとまったく私の話を無視する発言をするあたり彼が年々腹黒くなっているのは言わなくてもわかる。電話の向こうでにこにこしてるのも手にとるようにわかるのが嫌だ。

「名前さんがしたいようにすればいいと思うよ」
「10年前も“気持ちが籠ってるものなら何でもいいと思う”なんて曖昧なこと言ってたの覚えてる?」
「知らないなぁ」
「嘘つけ」

鳳くんが笑いながら黒い冗談を言うのでそろそろ電話をぶち切ってやりたいところを我慢して相談を続ける。

「名前さんのあげるものはなんでも喜ぶよ。だって今隣で、あっ…」
「隣?」

耳を澄まして電話から聞こえてくる音を聞くと後ろのほうで、馬鹿とかふざけんなとかどう聞いてもどう考えても若の声が聞こえてくる。
今までの話をすべて聞いてたわけかあいつは。

「若…」
「煩い。こいつに用があったから来ただけだ。もう帰る。」
「訳すると“名前に会いたいから早く帰る”」
「黙れ鳳」
「待って。もう帰るっておかしいでしょ。私まだプレゼント何も用意できてないよ」
「‥‥‥今日‥‥」

少し間が空いても喋りださない若に鳳くんが「ほら」と小さく言う声が聞こえた。

「名前の手作りの和食が食べたい」
「それだけでいいの?」
「違うだろ、ちゃんと言いなよ」
「煩い」

すぐさま批判の声を鳳くんが出すあたり多分若は今年何を私に頼もうか鳳くんに相談しに行ったんだろう。こうして私が悩むのを思い越して若は。

「‥‥‥でも、しとけ」

途切れ途切れに言ったくせに声が小さすぎてよく聞こえなかった私はもう一度言ってと少し間が空いてから言う。なんとなく聞くのが恥ずかしかったから。

「あの時みたいに…キノコの、ストラップに刺繍でもしとけ」

後ろでよく言えましたと多分いつも以上ににこにこしてる鳳くんが拍手する音が聞こえた。じゃあなと電話を切られてから放心していたと気づく。つまり10年前と同じものを用意しろということ。本当にこの10年間を大事にしてくれていると感じさせるプレゼントの要求に思わず泣きそうになる。
少し出た涙を袖で拭って、さぁ始めようと和食の準備とケーキの下準備、そして10年前と同じ裁縫セットを取りだした。
今から帰ると言ってたけど若のことだから私が作り終わるまでは帰ってこないはず。
ついでに鳳くんへのお礼も何か考えておこう。


今年は10年の思いを刺繍にこめて。









「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -