思い出、というのは時を経て薄れて行くものである。幼稚園や小学校低学年の頃の友達の顔なんてなかなか思い出せないものだ。
もちろん昔好きだった相手の顔なども忘れてしまった。そういえばあの子が私の男嫌いの発端だったりしたような気がする。特にカッコいいと言うわけでもない普通の顔だったのだが、なぜか好きになったのだ。
しかし、彼は今の私と同じような女嫌いだった。それは視界に入っただけでも嫌になるようなほどの。

「ウザいんだよ、あっち行けっ!」

考えてみるとこれが原因だったのだろう。こんなこと言われてどれだけ傷付いたことか。そしてその後も男子関連の嫌なことが立て続けに起きて、毎日たっくんに泣きついていた(たっくんも泣き虫だったがあの頃は私の方が上だった)。

『男の子なんていやぁぁぁあ!!たっくんと結婚するぅぅう!!』
「ナマエちゃ、く、くるしいっ…」
『この間ね、男の子にさわったら赤いぶつぶつがいっぱい出てきたの!だからもうさわらない!!』
「ぼくも男の子だよぉぉお!!!!」

―――

と、まぁ振り返ってみたが理由なんて本当に些細なものである。全くたっくんはいい迷惑だっただろう。部活が終わった頃、久々にたっくんの家に行ってみようかな。そんなことを考えていると横からボールペンでつつかれた。

『…何』
「にやけてたぞ」
『良いこと考えてたら誰だってにやけるでしょ!ほっとけ!』
「今日、ミーティングだけだから待ってろ」
『まさかの命令!』

何様だよこの人!基本有無を言わさない南沢くんはさらっと待ってろ発言をして教室を出て行ってしまった。そして現在、教室で南沢くんを待っている状況にある。何で待ってるんだ私!別に待つ義務は無いんだぞ!
心の中で葛藤を繰り広げていると、隣のクラス辺りから微かに声が聞こえてきた。ちらっと覗いてみると、南沢くんと可愛い女の子が小競り合いをしていた。暫く続いた後、女の子が走って飛び出してきたので、さっと教室に隠れる。走り去ったのを見計らって隣の教室に入ると、明らかに南沢くんの機嫌は悪そうだった。

『南沢くん…?』
「…見てたのか?」
『会話は聞こえなかったけど…告白、でしょ?あんな、可愛い子だったのに…』
「うるせぇよ」
『!』

そこまで大きくない声だったのに、キーンと頭まで響いてきた。肩がびくんと震えたと思ったらそれが全身まできて目の前が真っ白になった。

「…今はあっち行ってろ!」
『っ!』

言われた瞬間に教室を出て走り出した。触られてもいないのに蕁麻疹が出ているのは、あの男の子と南沢くんがリンクしているからだろうか。何にせよ、初めて本当に南沢くんが怖いと思った。どうも蕁麻疹が治まらないので久しぶりに保健室を訪れると、先生はいなかったが代わりにたっくんが救急箱を漁っている場面に遭遇した。

「ナマエさん!?」
『ごめん、ヒスタミン剤取って』
「どれですかヒスタミン剤って!?というかそんなものが学校の保健室に存在するんですか!?」
『ナイス、ツッコミ…その、黄色の箱だよ』
「どうしたんですかその蕁麻疹…!まさか南沢さんに!?」

なぜ南沢くんだとわかったんだたっくん、エスパーか、エスパーなのか?たっくんが持ってきてくれた水で薬を流し込むと気分的に少し落ち着いた(症状はだいたい数時間で治まったり治まらなかったり)。それにしても、なぜたっくんが泣きそうな顔をしているのだろうか。よくわからないが泣きたいのは私だ。

『泣かないでよたっくん。南沢くんのせいじゃないよ…たぶん』
「たぶんじゃないかぁぁあっ!!」
『だって、私も何がなんだか…』

さっきのことを話すとたっくんはみるみるうちに顔を青くした。もしかして、私よりたっくんの方が体調悪いのでは?そう思って聞いてみようとすると、たっくんは怖い顔をして立ち上がった。

「南沢さんと関わっちゃダメだ」
『…はぁ』
「ナマエさん、また俺まで触れなくなるかもしれないだろ」
『…そんなこと、』
「ないとは言えない」

たっくんは私の手を引いて保健室を出た。送って行ってくれるのだろうか?一緒に帰るの久しぶりだね、と言ったら呑気過ぎるよと怒られた。しかし蕁麻疹は未だ治まらなし、南沢くんとは暫く会いたくない気がする。明日は学校は休みたいな…。


あっち行け!
(昔は男の子なんてたっくんだけでいいと思ってたのに、南沢くんだって男の子だと当たり前のことを思い出してみた)



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