私は今、サッカー棟の前で空を仰いでいる。なぜこうなったのか、それは朝の配布物に問題があったのだ。
白い紙に黒い字で不審者情報という文字が書かれていた。更に目撃情報を見ると、調度私みたいな部活がない暇なやつらが帰る時間だ。怖い、怖過ぎる。今時こんなのにビビる女子などいないだろうが私は別だ。今日ぐらいは部活が終わるのを待って友達と帰ろうか?しかし女二人というのもある意味危険だろう。唸って考え込んでいると、いつの間にか前にいた南沢くんに配布物を取り上げられた。

「さっきから呼んでるんだけど」
『ご、ごめん』
「…これ、怖いんだろ?」

先程の紙をペラペラと揺らしながら問う南沢くんに頷いて返す。だってほんとに怖いんだもん。既に震えている身体を落ち着かせようと深呼吸をすると、南沢くんは顔を上げてきた。

「送ってやるよ」

…と、まぁこんな感じだ。いつもなら断るところだが今回だけは仕方なかったのだ。最近南沢くんは妙に優しいと思う。まぁ優しいやつが部活終わるまで待ってろとは言わないだろうけど、そこら辺はしょうがないと思っている。しかしサッカー部は男子ばかりだ、早く出てきてもらわないと本当に困る。そんな願いも虚しく、中から誰か出てきてしまった。あああああどうしよう…!

「ナマエ、さん?」
『はい?』

名前を呼ばれて思わず振り返ると久しぶりに見る幼なじみの姿があった。少し身長が伸びたようだが、可愛めの顔は変わっていない。たっくんと呼ぶと嬉しそうに笑って見せてくれた。

『たっくんってサッカー部だったっけ』
「うん。前に言ったと思うけど…」
『そうだっけ?何かのキャプテンだってのは聞いたんだけど…』
「ナマエさんはここで何してるんだ?」

相変わらず名前にはさん付けなのに敬語は使ってくれない(全く問題はないが)。そんなことより、たっくんの質問にはなんて答えよう?南沢くんを待っているなんて言ったら勘違いされそうだし…。

「おい、何ナンパされてんだよ」
『きゃぁぁあ!?』
「南沢さん!?」

時既に遅しとはこのことだろう。不意に現れて早々、南沢くんはたっくんにケンカを売っている(ように見える)。いやでも驚いているたっくんは可愛い。昔はよく、一緒に遊んで一緒に泣いたなぁなんて懐かしいことを思い出した。…あ、そんなこと考えてる場合じゃなかった。

『…たっくん?おーいたっくーん』
「なんでナマエさんが南沢さんと…?」
「別にいいだろ」
『たっくん違うよ?南沢くんとはただの知り合いだからね?泣いちゃダメだよ!?』
「泣きませんよ!!」

よしよしと頭を撫でてあげると小さい子供じゃないんだからと怒られた(私一応年上なのに…)。そしてそれを見ていた南沢くんはなぜか凄く嫌そうな顔をした。

「なんで神童には触れるんだよ?」
『幼なじみだからね!あと可愛いし』
「お前の理論ってよくわかんないわ」
『ぎゃぁぁぁあ!!』

たっくんの頭を撫でていた私の手を南沢くんが一瞬だけ掴んだ。一瞬だったので蕁麻疹は出なかったが、ぞわわわわーと鳥肌が立った。たっくんの後ろに逃げると今度はたっくんがよしよしと頭を撫でてくれた。ちょ、さっきの言葉そっくりそのまま打ち返すわ。

「南沢さん!ナマエさんが男嫌いなのを知ってるんだったら触らないでください!」
「嫌だ。俺はナマエと帰るんだよ」
「え!?」
『ち、違うよたっくん!昨日不審者が出たって言うから、その、』
「…行くぞ」
『え、ちょ、鞄引っ張んないで!』

私をぐいぐい引っ張る南沢くんを見てたっくんはぽかんとしていた。誤解されては嫌なので後でメールしよ、たっくんごめんね!それにしても、何だか南沢くんの顔が曇った様子である。もしかしなくても私のせいなのだろうか?しかしなぜ。校門を過ぎてからは鞄を離してくれたが、会話は無いし顔も見せない。色んな意味で最近の南沢くんは変だ。

「俺さ、」
『な、何?』
「お前の男嫌いが治ったらマネージャーにしようと思ってたんだ」

聞いた瞬間、は?とアホな声を出した私を無視して南沢くんは、だけどやめたと言った。私の意見もなしに普段こいつはこんなことを考えていたのか!自分勝手にも程があるなほんと!

「絶対治すぞ」
『…なんで私より南沢くんが必死なの?』
「そんなの、」

お前に触れたいからに決まってんだろ、と言われた瞬間顔が熱くなるのを感じた。ドキドキと普段感じたことのない感覚が襲ってきて変に思えてきた。しかし、南沢くんの方を見ると顔を背けているものの耳が真っ赤なことから顔も赤いことが伺える。こんなセリフ、さらりと言えるもんだと思ってたのに…。なんだ、可愛いじゃないか。


静寂よ続け
(結局会話は全くと言っていいくらい少なかったのだが、なぜか凄く楽しかったような気がしてならない。…明日も、南沢くんを待ってようかな?)



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