南沢くんと別れてから約10分が経過したところで、私は大変後悔した。いつもは部活が始まるまで南沢くんと一緒にいるんだけど、先生に呼ばれたとかで別行動。ついて行こうかと思ったが、力仕事なのでいいと断られてしまった(ちょっぴり悲しかった)。確かに力無いし役に立たないだろうけど、無理矢理にでもついて行くべきだったと思う。今の状況を軽く説明すると、私の後ろにはサッカー棟。そして前には、さわやかスマイルの霧野くんが立っている。

『こ、こんにちは霧野くん』
「はい、こんにちはナマエさん」
『えっと…南沢くんなら今日は先生に仕事押し付けられたから遅れるって…』
「はい、聞いてます」

だったら私に何の用ですか美少年。サッカー棟周辺を通る生徒たちが私と霧野くんをガン見しています!ただでさえ最近南沢くんといるから変な噂が立ってるのに、勘弁して下さい。暫く沈黙が続いたが、霧野くんがいきなり私の手を取って歩き出した。そして霧野くんの手には布地の手袋がはめられてはいる。いや、ありがたいけども!直に触られるよりいいけども!

『霧野くん何でそんな物持ち歩いてるんですか!?』
「ナマエさん捕獲用なので常にポケットに」
『捕獲って何捕獲って!だいたいサッカー棟って関係者以外立ち入り禁止なんじゃ…』
「円堂監督なら許してくれますよ」

ずるずると引きずられて、ある部屋にたどり着いた。いや、だからここ関係者以外立ち入り禁止なんでしょ!やっぱり私怒られちゃうよ!しかし霧野くんは私のことなど気にせずに扉を開けた。

「神童ー、ナマエさん捕獲してきたぞ」
「ナマエさん!?」
『たっくん違うの霧野くんに引きずられて気付いたらここに…!』
「今日ミーティングだけだし南沢さん遅れるらしいからいいだろ」
「ナマエさん!ナマエさん!」

怒られると思ったのは間違いだったようで、たっくんは嬉しそうに此方へ寄ってきた。うわー可愛い。グラウンドでならサッカー部のみんなに会ったことはあるが、サッカー棟で会うのは初めてだ。見たところ3年生が一人もいないようだが、何かあったのだろうか。

「先輩たちは今日都合が悪いんですよ」
『霧野くんあなた読みましたね!?』
「顔に書いてあったので」
『プライバシーの侵害だよ!』

やっぱりこの子黒い!可愛いのは顔だけなんだよ世の中の女の子は騙されてるんだよ!霧野くんとぎゃあぎゃあ騒いでいると、後ろから鈴のような声でナマエ先輩、と呼ばれた。霧野くんを無視して振り返ると、可愛い可愛い倉間くんがいた(何この子私の制服の裾掴んでる可愛い)。

『うわぁあ倉間くん!久しぶりだよね相変わらず可愛いね!この前練習見に来た時は南沢くんが全然喋らせてくれなかったから!』
「ナマエ先輩落ち着いて」
『きゃー可愛い!』
「倉間のどこが可愛いんだナマエさんの趣味ってわからん」

失礼だな霧野くん!倉間くんの可愛いところといえば目とか髪型とか身長とか!たくさん可愛いところがあるじゃない!そして何と言っても性格が可愛いよね!南沢くんにはちょっと生意気だったけど。倉間くんに悶えていると、見たことあるような無いような二人がこっちを見つめていた。何あのメガネの子可愛い…!

「あ、ナマエ先輩ですよね!」
『わ、私のこと知ってるの?』
「そりゃ知ってますよ!サッカー部じゃちょっとした有名人だし!な、速水」
「は、はい…」
『有名人…?』
「え?南沢さんの彼女でしょ?」
「『なっ…!』」

たっくんとハモったのはとりあえずスルーしよう。誰だ誰だそんなこと2年生に吹き込んだの。たっくんは知らなかったみたいだし、他に言いそうな人は…………霧野くんだ。にこにこしている霧野くんに目を向けるが、相手は悪いことをしたという自覚がないらしい。というか、南沢くんと付き合ってないからね!好きだとかは聞いたけど付き合うとか付き合わないとかは話したことないから!

「でも南沢さんのこと好きなんでしょう?」
『だから私の心と会話しないで!!』
「ナマエさんわかりやすいし。いつもいつも話すことは南沢さん南沢さん南沢さん。寝ても覚めても南沢さん南沢さん南沢さん…」
『霧野くん!?』
「話しの8割は南沢さんだし。残りの2割は神童か倉間だけど」
『とりあえずちょっと黙ろうか霧野くん!』

何これ自分で惚気てるわけじゃないのにすっごい恥ずかしい!確かに南沢くんのこと話すけど、他の人と同じくらいじゃないだろうか。でももしかしたら無意識のうちに…!

「付き合ってるかはどうかとして、好きなのは確かですよね」
『いや、あの、す、好きというか…』
「嫌いなんですか?」
『き、嫌いなわけ…』
「じゃあ好き?」

いつになく意地悪な霧野くんは確実に私を追い詰めてきた。だいたい霧野くんが私の惚気なんか聞いて特するの?でも霧野くんから南沢くんに、私が嫌いって言ってたなんて伝わったらすごく困る。…南沢くんいないし、平気…だよね?

『わ、私…南沢くんのこと、好きだよ?』
「!」
「(あ、ナマエさんと神童泣きそう)それは良かった。南沢さんも良かったですねー」
『…ふぇ?』

恥ずかしながらも言ったのに、ドアの方を見ると目を真ん丸にした南沢くんが立っていた。き、聞かれた!?南沢くんの反応を見ればすぐわかる。普段余裕そうな顔が、あれだけ真っ赤に染まってるんだから。くっ、可愛い…。可愛いけど、今の私がすることは一つだ。とりあえずいつも通り逃げよう。

『霧野くんのばかぁぁぁあ!!!』
「…南沢さん、早く追わないと!」
「…お前覚えとけよ」
「こんなおもしろいこと忘れませんよ(笑)」

後ろで何か聞こえたけど無視だよね。むしろ追いかけてくる南沢くんもスルーだよね!しかし人がいれば撒けると思ったのに、考えてみればこの微妙な時間帯にサッカー棟周辺を通る人なんていない。今南沢くんに会ったら死ぬ。さっきの恥ずかし過ぎて死ねる。裏庭まで来たはいいものの、運動部でない私の体力が保つはずもなく、人気のない茂みに腰を下ろしてしまった。…南沢くん、来ないかな。

『つ、疲れたぁ…』
「こっちのセリフだっつの…」
『ほぁぁあ!!?』
「くそ、何で俺より足早いんだ」

顔を上げると、すぐ近くに南沢くんが立っていた。逃げようにも、もう体力が残っていないため、気付いたら南沢くんの腕に閉じ込められていて身動きが取れない(たぶん少しでも動いたら蕁麻疹がぁぁぁあ…)。

『ごめんなさいもう勘弁して下さい私を殺す気ですね』
「落ち着け」
『これが落ち着いてられますか、むしろ何でそんなに落ち着いてるんですかっ…!』
「おー泣くな泣くな」

もうやだ死にたい。南沢くんに好きって聞かれちゃうし南沢くんの前で泣いちゃうし、私なんか嫌いだ。でも私がうじうじ泣いてるのに、南沢くんは抱き締めながら背中を撫でてくれている。優しい、好き、すごく好き大好き。

「ナマエ…」
『南沢くん意地悪だし、優しいしカッコいいし男の子だけど………やっぱり、好き』
「…なんか褒め言葉混じってるけど」
『やだ、好き。南沢くん好き、大好き』
「…俺も好き」


プリズムマインド
(南沢くんの手に触れた時、蕁麻疹が出なかったことに私たちは気付かなかった。)

―――

うん、微妙。くっ、何か計画してたやつと全然違う…!そして長い(当社比)
番外これで終わりとか言ったような気もするけどもう一個書きたいなぁ…(´・ω・`)どうしよう。



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