帰り道、どこからか視線を感じるが、前を見ても後ろを見ても誰もいない。自意識過剰なのかもしれないが、もしも、もしも幽霊の類いだったらどうしてくれよう。私はその手の話が苦手だ。怖い。死ぬ。
あまりに真っ青な顔をしていたようで「なんか名字ちゃん顔色悪くね?」高尾くんが声を掛けてくれた。理由を話せば真剣な顔で聞いてくれたが「お化け怖い」と言うと爆笑された。酷い。お前あいつらすごいんだからな。呪われるんだからな!高尾くんはまた爆笑した。「でも、お化けじゃなくて人に付けられてたらどうすんの」急に真剣をしてそんなことを言うから、思わず固まった。人ってことは、世に言うストーカーってやつ?ないない。私は被害に合うほどかわいい見た目をしてないし、周りにそんなことをしそうな人もいない。というかお化けよりましだ。…まあ、もしもストーカーだったらそれはそれで怖がるんだろうけど…。「心配だし、今日一緒帰ろうか?」そう提案してくれたのは嬉しいけど、高尾くんとは家の方向が真逆だ。部活のあとだし、無理はさせられない。「ありがとう、でも大丈夫だよ」「…明日行方不明になってたとか嫌だからね?」ずいぶん物騒なことを言ってくれるな。あまり怖がらせないでほしかった。
高尾くんが監督に呼ばれて立ち去ると、入れ替わるように宮地さんがやってきた。宮地さんとはいつも必要以上のことを話さないんだけど、何か用だろうか。「隣いいか?」と聞かれたのでとりあえず頷く。合わせられる視線が痛い。宮地さんのことは嫌いでも苦手でもないが、この人に見られるのは苦手だ。視線で殺されそう。

「高尾と何話してたんだ?」
「た、高尾くんですか?えっと…一緒帰ろう、みたいな?」
「…帰るのか?」
「いえ、方向が違うので」
「ならいいけど」

帰り道の話を宮地さんにするのはどうかと思ったので、大分はしょって伝えた。それにしても、なにがいいのだろうか。宮地さん、高尾くんと帰りたかったのかな?仲良いな…。
部活終了後、高尾くんに「気を付けて、気を付けてね?」と念を押されまくった。そんなに心配されると余計不安になるのですが…。いつも通り帰り道を歩くと、やはりどこからか視線を感じた。しかも、今日は足音まで聞こえる気がするんだけど。でも足があるってことはお化けの類じゃないんだ。よかった。足音なら帰り道の同じ人が後ろを歩いてるだけかもしれないし、とりあえず一安心だ。恐怖心が和らいだのも束の間、急に携帯が鳴り出してびくりと震えた。高尾くんから安否確認のメールだ。吃驚した…。立ち止まって返信メールを打っていると、後ろの足音が聞こえなくなっていることに気付いた。さっきの曲がり角を曲がったのだろうか。確認はしなかったけど、立ち止まっても追い付かれないということはそうだろう。高尾くんに大丈夫メールを送って再び歩き出す。しかし、私はほんの数歩で足を止めた。明らかに、自分のものではない足音が聞こえたのだ。私が止まると、それはやはり止まった。う、嘘でしょ…?ほんとに、ほんとにストーカー被害に遭ってるの…?少しだけ速く歩き始めると、同じ速度で付いてくる。あ、これ死ぬかもしれない。でも、今まで何もされなかったんだし、そんなに怯えなくても大丈夫かも?いいや、念には念を。再度携帯を取りだし、家族に電話することにした。歩きながら操作すると、そちらに気をとられて自然と歩みが遅くなる。しかしゆっくり歩く私に対して、後ろの足音が速くなり始めた。あれ、追い付かれるかも…?焦りからか、携帯も上手く操作出来ない。
走り出そうとした時にはもう遅く、後ろから肩を掴まれた。死亡フラグきた…!いつまでも振り向かない私に痺れを切らしたのか「名前」と急かすような声で呼ばれた。あれ…この声、どこかで聞いたことあるような…。意を決して振り向くと、立っていたのは宮地さんだった。どうして宮地さんがここに?もしかしたら、帰り道が一緒なのかもしれない。でも、今まで宮地さんを見掛けたことはなかったと思うんだけど…。「宮地さん、お家この辺りなんですか?」「いや、違うけど」ますます疑問である。辺り一帯は住宅地だし、特に寄る場所もない。なら、どうして。聞こうとは思うが、何かすごく嫌な予感がして口が動かせない。宮地さんの笑顔が怖い。視線が痛い。

「相変わらず鈍いよな」
「はい…?」
「やっと気付いても、理解は出来てないみたいだし」

一体なんの話をしているのだろうか。気付くって何に?理解って?分からないことが渋滞しているが、やっぱり聞くことが出来ない。宮地さんに対して怯えていることは確かだ。いつも苦手だとは思うけど、怖いと思ったことはないのに。「名前」名前を呼ばれただけで肩が震える。そういえばさっきも下の名前で呼ばれたけど、宮地さんっていつも私をなんて呼んでいただろうか。あまり呼ばれたことはなかったかもしれない。もしかしたら最初から下の名前で呼んでくれていたのかも。うん。そういうことにしよう。「今、高尾にメールしたろ」「え…?」「大丈夫って、何が?」何故、宮地さんがそのことを?しかもメールの内容まで知っているなんて。嫌な空気に戦慄が走る。出来れば今すぐ逃げ出したい。高尾くん、私今は大丈夫じゃないのですが…!
目をあちこちに泳がせていると、宮地さんに顎を掴まれて視線を合わせられる。屈んでくれてはいるが、やっぱり背が高いので見上げるのは首が痛い。不意に顔を近付けられたので思わず押し返そうとしたが、体格差でびくともしない。至近距離で見る宮地さんは周りの女の子たちが言う通りかっこいいが、その笑顔は口角を上げているだけで目が笑っていない。むしろ怒っているようにも見えた。

「ちょっと高尾と仲良過ぎじゃないか?休み時間に話したり部活の時話すくらいは仕方ないけど、休みの日に一緒に出掛けたり、夜に30分以上の長電話とか…なあ、高尾のこと好きなの?」
「宮地、さん…?」
「まあ、俺割りと心広いから、お前が高尾のこと好きでもいいよ。でも、お前のこと好きなのは俺だから。もし高尾と両想いになったとしても、俺がいる限り一緒にはいられねーよ」

がぶり。かわいくない効果音が付きそうなくらい乱暴に唇を奪われた。体を押してみるが、相変わらずびくともしない。されるがままだ。というか、ツッコミどころが多過ぎてどれから手をつけたらいいのか分からない。私は高尾くんにそういう感情は抱いてないし、仲が良いのは波長が合うからだ。理由はどうであれ、宮地さんが私のことを好いてくれているのは分かった。だから私が高尾くんといると嫌だということも理解は出来る。でも、問題はそこじゃない。なんで、私と高尾くんが夜に長電話するのを知っていたり、さっきみたいにメールの内容まで把握しているのだろうか。長電話は高尾くんから聞いたとかで説明がつくが、メールの件はどうにもおかしい。最初にした嫌な予感はこれだったのかもしれない。「…宮地さん」「なんだ?」「何を、しているんですか」日常で、学校で、ここで、私に、一体何を。恐怖心を紛らわせる為に宮地さんを睨み付けた。全く怯むことはなくて、同じように睨みで返される。もちろん先に目を逸らしたのは私だった。この人の目は怖い。

「知りたきゃ教えてやるよ。例えば、お前の携帯に盗聴器仕込んでることや、誰にメールしても同じメールが俺の携帯にも届くアプリをインストールしたこととか、あとは…実は毎日、一緒に帰ってたこととか?」

にやりと笑う宮地さんに寒気がした。いつの間にそんなことを。しかし、私も携帯を無防備にしていた節があるのでそれは自業自得である。学校でも家でも、私の会話は全部宮地さんに筒抜けで、友達としたメールの内容も知っていて。おまけに、いつも帰り道で感じていた視線は宮地さんのものだったなんて。だから、だからこの人と目を合わせるのが苦手だったんだ。本能的に感じ取っていたなんて。すごいと褒めるべきなのか、なんで早く気付かなかったんだと嘆くべきなのか分からない。
「やっと俺のこと、見てくれたな」バスケをしている時はあんなに輝いている宮地さんの目は、私を見る時だけ酷くくすんで見えた。そんなこと言って、この人は私が見えているのだろうか。否、見えていないのだろう。だから自分の感情だけで動くし、思い通りにならないから暴走するんだ。宮地さんと目を合わせるのが怖い。でも俯いたままで、逃げ出すことは出来なかった。「俺のこと捕まえたんだから、責任取れよ」捕まえられたのは、確実に私の方である。


見ぃつけた、
(二度と、二人の視線が合うことはないだろう)


―――

ヤンデレが書けない。ヤンデレが書けない。大切なことなので二回言ったった。なんかホラー臭しますな…。久々に暗い話書いたら心荒んだわ。でもヤンデレ連載したい…。こんなんでよろしかったでしょうか…!というかこれが私の限界ですリミットブレイク。リクエストありがとうございました。


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