体育館の整備で放課後の部活がなくなった。こんな早い時間に家に着くのは久し振りだ。どこかに寄ればよかった。家に入ろうとすると、曲がり角の方から聞き覚えのある声が聞こえてくる。名前だ。家の隣に住んでる小学生で、兄貴の方は俺と同い年。まあ同い年と言っても性格も趣味も合わないから、俺は名前の方が仲良いと思うけど。そんな名前は同級生らしき男と一緒にいた。…まさか小学生のくせに彼氏か?そんなものあいつの兄貴が許しても俺が許さん。
「おっきくなったら、キヨくんのおよめさんになるの」そう言ってくれたのは何年前だったか…。あの言葉忘れたとは言わせねぇぞ。昔は俺のこと呼ぶのが口癖じゃないかってくらいキヨくんキヨくんって引っ付いてきたんだからな。いくつになってもかわいくて仕方なかった。俺は大分昔から名前を嫁に貰うつもりでいる。だが、小さい頃の口約束なんていくらでもなかったことに出来るだろう。俺はお前の他の奴との結婚式で友人代表のスピーチとかすんの絶対嫌だからな。そんなもん式ごと轢くわ。…もうロリコンとか言われても仕方ないのか。小学六年生はセーフだろ。名前が20歳になったら俺は26歳だし…そう考えたら余裕だ余裕。高校生と小学生とか言うからロリコン臭くなるんだ。
「あ、キヨくんだ。キヨくーん」俺を見つけると、一緒にいた男を置き去りにして駆け寄ってきた。とりあえず勝ったか。それでも名前は振り返って手を振るのを忘れない。相手も嬉しそうだ。そんな目で名前のこと見てんじゃねーよ轢き殺すぞ。俺が一睨みすれば逃げるように去って行った。俺も大概大人気ない。

「キヨくん部活は?」
「体育館使えないからなくなった」
「じゃあ今日は私と遊ぶ日だね」
「なにそれ決定事項?」

とは言いつつも名前から誘ってくれて嬉しい俺だ。高校に入ってから部活漬けで会える機会が減った。親同士が仲良いのだけが救いで、たまに家帰ったらリビングに名前がいたり、俺が名前の家に行ったりしている。まあ、どっちも二人きりじゃないけど。「キヨくんのお家行きたい」部屋は片付いてるし問題はないが、今日は仕事を休んだ姉がいたりする。あれのことだから一日中家でぐうたらしてるんだろうな。見せたくないし、名前を連れて行ったら取られることが目に見えるので悪いが却下だ。「じゃあ私の家だね」着替えたら名前の家に行くということで話は進んだ。お前そんな簡単に部屋に男を入れんじゃねぇよ…俺だからいいけど。
すぐに着替えて名前の家に向かう。と言っても隣だけど。インターホンを押すと、誰かも確認せず飛び出してきた。「なんの為にカメラ付いてると思ってんだ、阿呆か」「でもキヨくんだったもん」頬を膨らませるのはかわいいが、少しは用心してもらわないと困る。こんなかわいいのに拐われない方がおかしいだろ。そんな俺の気も知らず、名前は早く早くと部屋の方へ引っ張る。そして久し振りに入ったその部屋は、昔の面影をなくしていた。割りと殺風景だった名前の部屋は黄色やピンクを基調としていて、所謂女の子の部屋というやつになっていたのだ。やっぱりそういう年頃か?以前は俺と名前の写真ばかりだったコルクボードも、今は友達との写真が多い。その中には男もいた。あ、これさっき一緒にいた奴だ。一緒に写真を撮るほど仲が良いのか。死ねばいい。…これは好きな男の一人や二人いてもおかしくないな。…自分で考えて落ち込むわ。

「名前、好きな奴とかいるのか?」
「またその話?キヨくんもみんなも好きな人聞くの流行ってるの?」

学校でもこういう話題ばかりのようで、つまらなそうに口を尖らせた。流行ってるっつーか、聞いて回りたい奴はたまにいるだろ。というかまだ答えてもらってないからな。問い詰めれば頬を膨らませて「どうせいませんよー」と否定で答えた。どうやら学校でもいないと答えて仲間外れにされたらしい。よかったまだ阿呆で。俺って言ってくれたら尚よかったけど、まあそれはあり得ない訳で。少し前に一緒に歩いているのを名前の友達に見られたようで、その翌日「友達に、名前ちゃんのお兄さんかっこいいねって言われたの」と報告されて大分落ち込んだのは軽いトラウマである。名前は喜んでるし、しかも否定しなかったらしい。お前にとって俺はお兄さんレベルか。よく考えろお前の兄貴と俺じゃ甘やかし方が全然違うだろ…。あと別にお前以外にかっこいいとか言われても嬉しくねーよ。…とは言えないけど。「もしかしてキヨくんは好きな人いるの?かわいい?」お前だよ。そりゃもう死ぬほどかわいいよバーカ。俺は小学校入った辺りから名前しか見てない。でも能天気で阿呆な名前は俺の気持ちに気付きはしない。それ以前に兄貴同然の扱いを受けて心が折れそうだ。
いつまでも質問に答えないで悩んでいるのを肯定と取ったらしく「キヨくん彼女できるのかー」と少し飛躍した話をされた。なに勝手に話進めてんだ轢くぞ。お前がならない限り出来ねーからな。というか俺より先に名前に彼氏が出来たらどうするんだ。中学入ったらありそうだよな…頼むから女子校行けよ。…前に女子校行けよって言ったら嫌がられたのを思い出した。「私の青春を邪魔するの!?」とか言われたっけ。どうやら恋愛に疎くても恋愛に憧れは抱くらしい。もう身近なところで手を打つ感覚でもいいから俺に靡けよ…。

「キヨくん」
「なんだよ」
「彼女できても遊んでくれる?」

急に不安そうな顔をしたと思ったら、俺が遊んでくれなくなると思って寂しくなったようだ。俺の気持ちには気付かないくせに思わせ振りなこと言いやがって。遊べなくて寂しいなんて、やっぱり俺は近所のお兄さんレベルらしい。でもまあ、寂しいと思ってくれるくらい好かれてるから大目に見てやろうかな。「しょうがないから遊んでやるよ」「…嫌ならいいもん」あ、拗ねた。不安がったり拗ねたり忙しい奴だ。そういうとこもかわいいけど。俺に背を向けた名前を後ろから抱き締める。お、少し背ぇ伸びたか?小学校高学年になってからの成長は早いもんだ。「…キヨくんセクハラですよ」「いつものことだろ」「訴えてやるー」そう言いつつ俺の腕を振り払うような真似はしない。このくらいの歳になったら兄妹でもこんなことしないんじゃないか?拒否されるよりはいいけど、ここまで平然とされるのもツラい。意識されてなさ過ぎる。
お前はこれからまたかわいくなったり、急に大人びたりして、俺のこと焦らせるんだろうな。それでも諦めることはないし、他の奴に譲る気もない。どこに行こうとしても、こうやって閉じ込めて出られないようにしてやるから。だから早く、大人になって、早く俺の気持ちに気付けよ。もうお兄さんは卒業してぇからさ。


お隣さんと恋愛事情
(お兄さんかっこいいねって言われたの)
(またか…)
(でもちゃんと、キヨくんはお兄ちゃんじゃないって言ったよ)
(名前…!)


―――

連載出来そうなくらいのネタだった件について。予想以上にロリコン未遂な宮地さんうまかったです…!甘いのか分かりませんがこんな感じでよろしかったでしょうか。少しヤンデレ入ってる?いやいやセフセフ。何はともあれ楽しかったです。
リクエストありがとうございました。


130521
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